旅行で皆さんが楽しみにされていることって何でしょうか?景色や景観、そして地元の人との交流やうれしいハプニングなど色々あると思いますが、中でも大きなウェイトを占めているのが、地元のグルメやお酒を楽しむことかと思います。もちろん、北海道にも日本酒やワイナリーなど様々なお酒がありますが、今回は札幌や札幌近郊で観光としても楽しめる、代表的な日本酒の酒蔵を2件、紹介します。
豊平川沿いにある札幌唯一の日本酒蔵
近年、日本酒が復活の兆しを見せ、若い方や女性、海外の方に日本酒ブームがやってきています。そんな筆者も古くからの日本酒党であります。北海道には地酒の蔵が11蔵あり、それぞれ頑張っていますが、大都会・札幌に唯一存在するのが「千歳鶴」を醸す日本清酒(株)です。
札幌を代表する河川・豊平川沿いにある日本清酒。創業は明治5年という北海道でも最古クラスの酒蔵です。札幌市民の憩いの場であり、観光の拠点でもある大通公園からは、東に歩いて15分という都心に日本清酒の本社があり、向かいには千歳鶴のお酒を楽しめたり、購買できる「千歳鶴酒ミュージアム」があります。
ミュージアムの向かいには、年季の入った仕込み蔵「丹頂蔵」があり、銘酒が醸されています。昭和34年に建造され、現在もそのまま使用されています。いかにも昭和という質実剛健な造り。地酒蔵とは思えない大きさで、建築当時は国内最大級の仕込み蔵だったとか。蔵の見学は予約が必要で、10人以上の団体であることが条件となっています。
蔵見学は敷居が高いですが、代わりに、ミュージアムが楽しめます。入場料はもちろん無料。自動ドアの入り口から入ると、日本酒の命である仕込み水が出迎えてくれます。
蔵の隣を流れる豊平川が源流の伏流水を地下150mからくみ上げています。試飲は自由です。この水はさすがに旨いです。地酒蔵の仕込み水は軟水が多いですが、同蔵の水は、バランスの良い中硬水といった印象。塩素などが入っている水道水と比べると、やはり圧倒的にピュアな味わいです。湧水だけあり夏場でも冷たく、この清冽な仕込み水が大都会の札幌でも地酒づくりを可能にしているのですね。
ラッキーなことにこの仕込み水は持ち帰りもできます。ミュージアム向かいの建物に仕込み水の蛇口があり、ミュージアムの見学者は優先して汲むことができます。もちろん市民の方にも開放されていて、大きなペットボトルで汲んでいた方も。私はちょうど500mlのミネラルウォーターのペットボトルが開いたので入れておきましたが、もっと大きいペットボトルが必要ですね。訪れたのは9月下旬でしたが、11月から4月までは凍結するので汲むことはできませんのでご注意を。
ミュージアム全商品の試飲ができる!
さてミュージアムの館内ですが、蔵の歴史や、かつて使用していた仕込みの木桶など古い道具や昔の商品の広告ポスターなどが陳列されていますが、基本的には直売ショップという雰囲気です。
館内では千歳鶴のほぼすべての種類を販売しているほか、梅酒などのリキュール、「余市ワイン」、味噌、酒粕などの食品や加工品も販売しています。北海道では比較的大手の同社。ワイン醸造の子会社も持ち、総合醸造企業という顔も持ち。館内では、販売されているすべての商品を試飲することもできます。
ここだけでしか買えない限定酒もありますし、カウンターにあるサーバーから純米吟醸の生酒を瓶詰して販売するサービスも行っています。購入を希望したお客さんにはスタッフの方が直に瓶詰してくれます。正真正銘、“ミュージアム酒”ですね。
日本酒好きならずとも気楽に訪れることができるので、試飲がてら、札幌の地酒「千歳鶴」を味わってみてください。また試飲だけではなくミュージアムにはカフェ兼休憩所もあり、コーヒーやケーキ、軽食も頂くことができます。筆者は評判の良い「酒粕ソフトクリーム」を食べました。
ミルキーな甘味と酒粕のフルーティーな麹由来の甘味は爽快感が増し、不思議な味ですが、美味しいことは間違いありません。
小林酒造はさながら“酒テーマパーク”
もうひとつ、札幌から東へ約45㎞の場所に栗山町があります。有名な夕張町の隣町です。アクセスは札幌から車で約50分、高速バスなら約1時間です。バスの方は栗山駅前で下車し、徒歩15分で到着します。
朝の栗山駅前です。筆者が訪れた11月下旬は、雪にスッポリ包まれ気温も摂氏-7℃と真冬の様相でした。札幌はほとんど雪がなかったので驚きでした。そんな人口1万2000人余りという小さな街ですが、北海道の左党には高く支持されている清酒蔵があります。それが「北の錦」で知られる小林酒造です。
明治から昭和初期の赤レンガや石造りの蔵や建造物、木造の建築物が壮観で、建造物のうち13棟が国の登録有形文化財に指定されています。古い建物の鑑賞が好きな方は、この建造物を鑑賞するだけで価値があります。北海道の明治大正時代の建造物の特徴は、赤レンガと、札幌軟石の石造り、そして和洋折衷に集約されていると思います。全道的にも札幌の赤れんが庁舎、サッポロビール園、函館の金森赤レンガ倉庫など思い出して頂くとわかると思います。写真は同酒造の事務所と赤レンガ倉庫で事務所の「鳳紋 北の錦」の看板の文字版は創業当時(明治11年)からのものです。
赤レンガや石造り、木造の歴史的建造物が圧巻
とにかく、蔵や建物の貫禄は圧巻です。石造りの貯蔵蔵などは全国的にも多いと思いますが、仕込み蔵まで煉瓦や石造りという蔵は全国的にも珍しいはずです。
こちらの蔵が現在の仕込み蔵で、酒蔵見学は日本清酒と同じく、10人以上の予約制です。同酒造は6棟の仕込み蔵がありますが、現在はそのうち2つを使用しているのみです。新潟県から入植してきた小林家は1878年(明治11年)に札幌で酒造業を開始しました。その後、明治33年(住居は明治30年)に栗山町に移転します。理由は隣町、長沼町の水を求めたことと、当時、国のエネルギー政策として、石炭が重要な役割を果たしていましたが、空知は一大炭鉱基地となり活況を呈していました。そんな、石炭産業に独占的に清酒を提供することを考えたからでした。そのため戦前、戦後を通して、大量生産を必要としていたため、数多くの蔵が必要だったのです。
現在は、特定名称酒の生産に特化し、すべて北海道産の酒米を使った少量生産にシフトし銘酒を醸しています。そんな「北の錦」の歴史を知り、試飲や購入もできるのが「北の錦記念館」です。
昭和19年(1944年)建築の旧本社事務所です。1階がショップや、酒器コレクションなどが陳列されています。
試飲コーナーでは、記念館限定の「杜氏さんのとろりにごり酒」を試飲しました。
かなり甘いのですが、後口は非常にスッキリしていて癖になる味わい。カルピスのような印象もあり女性の口にも合うと思いますが、飲みすぎ注意です。2階は、荘厳な洋風の造りに、酒蔵の歴史を感じられる展示物と、戦後にGHQが使った部屋や、酒造りが終わり、蔵人をねぎらう宴会のシーンなどが再現されている部屋が興味深かったですね。
そのほかにも酒道具館や、明治・大正のくらし展など、当時の酒造りの道具や、暮らしで使用していた道具、アイテムなどがそれぞれ展示されています。
明治・大正のくらし展も小林家で実際に使用していた生活用品が多数展示され、当時を再現しています。まるで、その時代に入り込んだかのような気持ちになります。
蔵の仕込み水と道産そば粉を使った蕎麦が絶品!
もちろん食事も楽しむことができます。酒蔵の奥に進むと、大きな蔵があり、そこが平成11年に多目的ホールとしてオープンした「酒の郷なつかしホール」と、くりやまコロッケ直営レストラン「蔵」があります。
現地一貫生産のコロッケが大人気で、栗山名産のきびだんごなども販売しています。ちなみに12月から4月までの冬期間は休業中です。
ですが、ご安心下さい。昭和元年建築の元役員住宅を改築した「そば処 錦水庵(きんすいあん)」もあります。
「北の錦」の仕込み水、北海道産のそば粉を使った手打ちそばを提供するお店で、週末はすぐ品切れになることもある人気店です。筆者はもりそばの「田舎」そばを頂きました。
そば粉はその時期により最適なものを使っているということで、筆者が訪れた時は深川産のそば粉でした。そば粉のうまみが存分に出ていて、つゆも、カツオの出汁が出てやや辛口に仕上げられていて、久々に美味しいそばを食べた気分になりました。個人的にもオススメできるお店です。
そして、日本酒好きではなくとも、女性や外国人の方に最もオススメできるのが、「小林家」です。
北の錦創業者の小林米三郎氏が明治30年に建築した生家。三代目・米三郎氏が2011年に他界した後、家の維持管理に多大な経費がかかることになりました。取り壊しの危機もありましたが、三代目の娘さんが教員を退職、家を管理する会社を立ち上げ、平成26年から家を一般公開することで維持管理することになりました。
3年前まで小林家の方々が実際住んでいた同家は、2006年に登録有形文化財に指定されています。実際の生活の匂いをそのまま残し、明治・大正・和の心を今に伝える貴重な資産となっています。生家を案内するのは、小林家の4人の女性。家の案内は予約制で文化財保存協力費として1000円を頂いています。喫茶コーナーやギャラリーは無料です。
喫茶コーナーは古民家カフェという雰囲気で、畳の和室なので非常に落ち着く空間です。手ぬぐいや古布小物など小林家オリジナルグッズも販売しています。
筆者は純米大吟醸の酒粕を使った甘酒(300円)を頂きました。高級な酒粕を使っているので、非常に上品でフルーティーな味わいに感銘を受けました。
ひととおり見回ったのですが、小林酒造は歴史的資産をうまく有効活用し、観光スポットが少ない栗山において、1箇所で完結できる有数の名所となっていることを実感しました。
ちなみに、日本清酒も小林酒造も、札幌市内に直営の居酒屋を営業しています。日本清酒は「割烹居酒屋 直営 千歳鶴」(札幌市中央区南5西3)、小林酒造は「七番蔵」(札幌中央区南2西4フェアリースクエアビル1階)という名前です。北海道の郷土料理や酒肴と両蔵自慢のお酒を堪能することができます。気に入った方は足を運んでみてください。
まとめ
北海道の地酒は全国的にはまだまだ知られていませんが、近年は新しい酒米の登場で酒質も上がっています。北海道に来られた時には、今回紹介した酒蔵が訪れやすく、かつ楽しめると思います。特に小林酒造は歴史的建造物を生かし、テーマパークのようになっているので、アクセスは大変かもしれませんが訪れてみてください。
<スポット>
千歳鶴酒ミュージアム
住所:北海島札幌市中央区南3東5-1
TEL:011-221-7570
URL:http://www.nipponseishu.co.jp/(日本清酒株式会社)
小林酒造
住所:北海道夕張郡栗山町錦3丁目109
TEL:0123-72-1001
URL:http://www.kitanonishiki.com/
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