ローマに行ったらぜひ訪れたいのが、ヴァチカン美術館(MUSEI VATICANI)。ここは歴代の教皇たちが収集したお宝が揃っています。しかも、いくつもの美術館が複合的に構成されているので、全てをきちんと見て回るには最低でも2日はかかると言われています。ここでは、数ある名美術館の中でも特に見るべきおすすめスポットと予約方法など、バチカン美術館を楽しむために必要な情報をお伝えします。
ヴァチカン美術館とは
初代ローマ法王聖ペトロの墓であるサン・ピエトロ大聖堂の近くに、ローマ法王が住むことを重視したニコラス3世(在位1277年~1280年)によってヴァチカンに宮殿が建てられました。その後、ローマ法王のアヴィニョン捕囚のあと、法王庁がヴァチカンへ移され、のちの法王たちが思いつくままに増改築していった宮殿群に集められたコレクションが、ヴァチカン美術館です。
16世紀の初め、法王ユリウス2世(在位1503年~1513年)が、古代彫刻像をヴァチカンへ移しヴェルベデーレ小宮殿の庭園に設置したことが始まりだと言われます。このルネッサンス法王は、古代ローマの栄華をキリスト教の鍵のもとに復活させるという意図があったのです。この時代は、古代研究の復活と人文主義の普及により、芸術家や文学者などが、法王の客としてヴァチカンに集められ、世俗の宮殿のような華やかな行事が繰り広げられていました。
この法王たちによって作られた美術館であるヴァチカン美術館は、キリスト教のメッセージが多分に含まれています。この美術館をより楽しむためには、事前にキリスト教や古代ローマ史に関する勉強をしていくことをおすすめします。
ヴァチカン美術館に行くには、ツアーがおすすめ
もし、キリスト教や美術史、世界史についての知識があまりないのなら、ツアーに参加することをお勧めします。この美術館は、見学コースは全長7km、総面積4万2000㎡という広さのうえに迷路のように入り組んだ22の美術館で構成されているため、各自で見学するのは、迷わずに歩くだけでもなかなか大変です。ガイドの案内で回れば、効率よく、世界的にも重要な絵画、彫刻などを楽しめます。
ツアーが苦手な場合は、日本語のイヤホンガイドが7EUROで貸し出されているので、これを使うのも一つの方法です。2016年9月現在、パスポートなどの身分証明書なしに貸し出しています。
予約は必要?
ヴァチカン美術館の予約料は、入場料金に加え4EURO必要です。インターネットでの予約が可能なので、比較的簡単に日本からも予約できます。ヴァチカン美術館は、現在の法王フランチェスコの人気にもあって、最近ではいつでも長蛇の列です。よほど天気の悪い日、または早朝から並ぶか、午後2時過ぎでないと、約2時間近い行列は覚悟したほうがいいでしょう。せっかく旅行中の貴重な時間、しかも、広大な美術館は歩いているだけで疲れてしまうので、予約することをおすすめします。
https://biglietteriamusei.vatican.va/musei/tickets/do?action=booking&codiceTipoVisita=26&step=2
ヴァチカン美術館への行き方
テルミニ駅をはじめとする地下鉄の駅からなら、地下鉄A線の「オッタヴィアーノ、OTTAVIANO」または「チプロ、CIPRO」で降りれば、ヴァチカン美術館まで徒歩約10分です。もし、予約をしていないのなら、絶対に「オッタヴィアーノ」駅がおすすめです。駅からまっすぐリソルジメント広場へ向かい、ヴァチカンの塀に沿って歩いていくと、長い行列の最後尾があらわれるので、そのまま列に並びましょう。
バスで行くなら、49番だと美術館の前にバス停があります。32番、81番、982番、トラム19番ならリソルジメント広場が最寄り駅で、そこから徒歩約5分。492番、990番も美術館から徒歩約5分のレオーネ4世通り(VIA LEONE IV、ヴィア・レオーネ・クワルト)で降ります。
タクシーの場合は、「INGRESSO DI MUSEI VATICANI、イングレッソ・ディ・ムゼイ・ヴァチカーニ」といえば、美術館の入り口で降ろしてもらえます。
ヴァチカン美術館のおすすめ美術館
あまりにも見どころが多すぎて、かえって疲れてしまっては残念です。最大の見所のシスティーナ礼拝堂のほかは、量より質で本当に見たいところだけを絞ってじっくり見学するのが、大きな美術館を楽しむ秘訣です。
・絵画館(PINACOTECA、ピナコテカ)
入り口の階段をあがったところ、すぐ右手の中庭を超えたところにあるのが絵画館です。絵画館と言っても、名作が目白押しで、しかも見学コースでは最後のほうに位置しているせいか、他の場所に比べて人込みも少なくじっくり鑑賞できます。11世紀から時代別に展示されているのでわかりやすいです。
数ある名画の中でも、第8室のラファエッロは壮観です。中央にラファエロ最後の作品「キリストの変容」(TRASFIGURAZIONE、トラスフィグラツィオーネ)、右に「聖母戴冠」(INCORONAZIONE DELLA VERGINE、インコロナツィオーネ・デッラ・ヴェルジネ)、左に「フォリーニョの聖母」(MADONNA DI FOLIGNO、マドンナ・ディ・フォリニョ)という3枚の名作が一堂に並んでいます。同じ画家でも制作年代によるスタイルの変化が見て取れます。また、ラファエロが下絵を描いた巨大なタペストリーも必見。「ラファエッロの間(STANZE DI RAFFAELLO、スタンツェ・ディ・ラッファエッロ)」のアテネの学堂をはじめとする名作も必見ですが、こちらのほうがゆっくり鑑賞できます。
その他にも、第9室レオナルド・ダ・ヴィンチの「聖ヒエロニムス」(SAN GIROLAMO、サン・ジローラモ)、第12室カラヴァッジョの「キリスト降架」(DEPOSIZIONE、デポジツィオーネ)といったすぐれた作品をお見逃しなく。
・エジプト美術館(MUSEO GREGORIANO EGIZIO、ムゼオ・グレゴリアーノ・エジッツィオ)
クレオパトラのプトレマイオス朝がローマに敗れ、紀元前30年エジプトは古代ローマの属州となりました。当時、ローマ人はエジプトの未知の動植物や壮大な建造物、独特の宗教、儀礼にすっかり魅了され、エジプトの美術や文化を積極的に取り入れました。そのため、オベリスクをはじめとする様々な美術品が、古代ローマの遺跡から多数発掘されたのです。
また、古代ローマ帝国時代のハドリアヌス帝が、ローマ郊外のティヴォリにあったヴィッラに造ったセラピス神殿の一部も、この美術館内に再現されています。
特にこの美術館の見所は、なんといっても2番目の展示室です。葬儀と死者の崇拝に関する作品が集められていて、紀元前1000年の棺の中のミイラなどが実際に展示されています。人間の形をした木の棺は、様式化された死者の姿、図案などが今でも色鮮やかに残っていて、死者の復活を信じていた古代エジプト人の技術に驚かされます。
・地図のギャラリー(GALLERIA DELLE CARTE GEOGRAFICHE、ガッレリア・デッレ・カルテ・ゲオグラーフィケ)
幅6m、長さ120mというとてつもなく長い廊下の側面に、イタリア各地の地図40枚が並んでいます。真ん中をイタリア半島を貫くアペニン山脈とみたて、右側にアドリア海側の街、左側にティレニア海側の街が、教会所有の領土を中心に描かれていて、誰でも単純に楽しめるギャラリーです。
16世紀の後半に描かれたこの地図は、それぞれの地方ごとに地理的、経済的、政治的特徴を簡潔に示した説明書きがあり、距離の計算ができるように縮尺が示されているかなり正確なものです。また、古代や中世といった歴史的な政治的事件や戦闘、古代神話に出てくる怪物や海戦も示されていて、じっくり見ているとさらに興味深く楽しめます。
一方、この地図の間ぎっしり埋めている天井画には、キリスト教の使徒、聖人、殉教者などの模範的なエピソードや奇跡が描かれています。そして、それぞれのエピソードの舞台となった場所が下の地図に呼応しているという演出がなされています。実際は、物凄い人込みのこのギャラリーでは、天井を見るより、両側の壁を見るのに忙しくて、天井まで見ている人はほとんどいないのですが。
ギャラリーの先頭には「古代ローマ帝国時代のイタリア」と「新しい16世紀のイタリア」という新旧のイタリアの地図が置かれています。古いイタリアに対して「闘い前夜のコスタンティヌス帝への十字架の出現」というキリスト教公認へとつながる歴史的に重要なできごとと、16世紀のイタリアに対し「コンスタンティヌス帝の洗礼」という新しいイタリアの誕生を証明するエピソードが天井には描かれていて、まさしくキリスト教ならではの地理と歴史の交差という関係を生み出しています。
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