新学期の時期や年齢は地域によってバラバラ
ドイツの教育制度は一言でいうと「多種多様で複雑」です。
というのも教育分野に関しては、連邦政府の管轄ではなく各州の管轄に委ねられているからです。中央政権制度を取っている日本では地方の権限は限定されていますが、ドイツは連邦制度であるため、州の権限がとても強いのです。
10年以上前に行われた連邦主義改革で教育部門は州の管轄事項に定められました。この時より、実質的な教育はすべて州によって決定されるようになったのです。その結果、教育制度は連邦州によってずいぶんと違いが出てきています。
入学する年齢が各州によって違う
分かり易い例で言うと入学の年齢です。ドイツの新年度は夏に始まるのですが、9月末生まれの私の次男は昨年9月初めに5歳で小学校に入学することになりました。ベルリンでは9月30日までに生まれた子どもは入学することになっているためです。
一方でヘッセン州など別の地域では9月30日ではなく、6月30日までに生まれた子どもを就学させる方針を取っています。つまり私の次男はベルリンでは小学校一年生ですが、6月30日までとしている州ではまだ幼稚園児なのです。
ではもし私たち一家が別の州に引っ越したらどうなるのでしょうか?
「児童の学習能力や発達度合によって学年を決めることになる」のだそうです。基本は該当の州で定める規則を参考としますが、2年生の勉強をがんばってきた子が引っ越しのためにいきなり1年生になって既に学習した内容を繰り返さなければならないなどといった事態を避けるため、子供の習熟度合いである程度臨機応変に決めているそうです。
因みに私のドイツ人の友人は子どもの頃親の仕事の関係で引っ越した新しい町で、一学年下のクラスに入れられてしまったそうです。「子どもながらにかなり傷ついた」そうです。
一体、ドイツ全土16州でどれくらい入学時期が異なるのでしょうか?
1. 6月30日生まれまでを入学年齢とする:ブレーメン州、ハンブルク州、ヘッセン州、メクレンブルク・フォアポンメルン州、ザールラント州、ザクセン・アンハルト州、シュレスビッヒ・ホルシュタイン州
2. 9月30日までを入学年齢とする:バーデン・ビュルッテンベルク州、バイエルン州、ベルリン州、ブランデンブルク州、ニーダーザクセン州、ノルトライン・ヴェストファレン州
3. 8月31日までを入学年齢とする:ライラント・プファルツ州
4. 8月1日までを入学年齢とする:チューリンゲン州
こんなに違うとなると、自分が住んでいる州の入学時期を把握していることくらいしかできなさそうです。
誕生日によっては入学を早めることも遅らせることも
引っ越し先で学年が違った場合には「児童の学習能力や発達度合によって学年を決めることになる」と書きましたが、この方針は引っ越しの場合だけに限りません。
6月30日や9月30日といった基準日だけで学年は決まらず、「入学基準日の前後3か月間に生まれた子どもは、入学を早めることも遅らせることもできる」という決まりもあります。
ここでまた私の次男についてお話することになってしまいますが、次男は基準日のほぼ最後の9月末生まれのため、昨年夏に入学させるべきか、一年遅らせるべきかずいぶんと迷ったものです。
入学時期を選べるだけに「クラスで一番生まれたのが遅いのに、小学校でちゃんとやっていけるのだろうか?」「いじめられたりしないだろうか?」「一年間遅らせて入学したほうが良いと思う」などと主人と一緒にあれこれ悩みました。
3か月くらい考えた結果、結局入学させることにしたのは次の理由によります。
1. 次男本人が「学校に行きたい」と言っていたこと → 親の判断はともかく、まず本人の意思を尊重することが大切。
2. 体が年齢の割には大きい → 体が小さいことでいじめられることは無いだろう。
3. アルファベットや数字をすでに書くことができた → 授業でついていけるだろう。
4. 幼稚園で仲良くしている友達の大半が小学校に入学することになっていた → もし一年長く幼稚園にいた場合、遊び相手があまりいない。
5. 専門医による入学適性検査に合格していたこと → これについては後述しますが、入学するにあたり専門医による検査を受けなければならない。この専門医から入学を強く勧められた。
6. 入学する小学校で行われる入学前適性検査の担当官より、入学を強く勧められたこと → この検査後、担当官より「もし一年間入学を遅らせたら、入学後に授業で退屈することになる」と言われた事が一番の決め手となった。
入学前にずいぶんと悩んでいたものの、実際に入学させてみてやはり正解だったと実感しています。文字を書くことや簡単な計算をする事にちょうど興味が出始めていた時期に入学することになったため、学校での勉強が面白い、やりがいがあって楽しいと感じてくれているようです。
学校での勉強が難しすぎたらついていけず嫌な思いをし、簡単すぎたら退屈してしまうことになります。親にとってはそのちょうど良い時期を見つけるのは素人判断で困難ですが、その点は専門医や小学校の担当官の判断に従うのが良いと思っています。
次男は結局、5歳11か月で入学することになりました。入学当初は授業中に泣き出すことも何回かあったようですが、今ではすっかり学校生活を楽しんで元気に通っています。
入学前には専門医の適性検査を受け、合格しなければならない
先に専門医による適性検査について少し書きましたが、年齢によって自動的に小学校への入学が決まるわけではなく、専門医が実施する適性検査に合格する必要があります。(調べてみたところ、適性検査は全ての州で実施されているわけではないようです)
新年度が始まってしばらくたった10月くらいには、次年度に入学する子どものいる各家庭宛てに役所から書簡が届きます。保護者は書類に必要事項を記入し、指定の期間までに入学の手続きを済ませなければなりません。
入学書類を提出した際に、各保護者は専門医の適性検査を受ける時期を決めます。就学前の子どもは数か月間で急に成長することが多々あるため、なるべく遅い時期を選んでいる家庭が多いようです。ただし一定の時期を過ぎると、後々やっぱり入学時期を一年間遅らせたいと考え直しても変更できなくなってしまうのです。
私たちはそのぎりぎりのタイムリミットである2月の末日に適性検査のアポを入れることにしました。後で知ったのですが、他のご家庭もこの時期を選んだ人が多かったようです。
いざ、検査会場へ
2月末日、長男を朝学校に送り届けた後に次男と主人、私は検査会場まで出かけました。場所はKinder- und jugendgesundheitsdienstといい「青少年健康センター」と訳せるでしょうか。ベルリンの地区内にあり、ここで適性検査を受けるシステムになっています。
主人も私もこの時は入学の時期を迷っていたので、「検査の結果、不合格になったら迷わずに一年遅らせばいいね」と話しており、リラックスした気分でした。
自分の絵を描く
会場内に入り、受付を済ませて廊下で待ちます。受付の人から「待っている間に自分の体を描いてね」と紙を渡されました。お絵描きが好きな次男は、小さな机の上で喜んで絵を描いています。廊下には私たち以外にもう一家族しかいず、しんとしていました。
身体検査を受ける
それから20分ほど経ったでしょうか。担当の先生に名前を呼ばれ、室内に入りました。
名前を聞かれ、ニコニコしながら答える息子を見て安心したものです。緊張させないために本人にはテストとは言わずに「先生がいろんなクイズを出してくれるから楽しんでね」とだけ伝えておいたのですが、まんまと(!)信じてくれたようです。
一人目の先生のところでは先ほど描いた絵を渡し、身体測定だけを行いました。身長、体重、視力検査、聴力検査を受けた後、再び廊下に出て待機するようにと指示を受けました。
言語調査と身体テスト
しばらくすると別の先生が廊下に出てきて、次男の名前を呼びました。別室に通されると次男が描いた絵を手に持っています。絵について簡単な質問をした後に通っている幼稚園について質問します。
「幼稚園ではどんな遊びをするの?」「どんなおもちゃで遊ぶの?」などの質問が次々とされました。次男は相変わらず、ニコニコして答えています。子どもがリラックスできるように優しくたずねていますが、恐らくここではドイツ語能力をチェックしているのだと思います。
質疑応答が終わり、簡単なテストが始まりました。
数字や絵の認識
フラッシュカードに描かれた丸の数を答えたり、二枚のフラッシュカードを見て数が多い方を答えたりなどします。こんなテストは生まれて初めてなので、見ている方の私が緊張してしまいますが、本人は楽しそうに答えています。
その後は3種類の絵を見て隣に同じものを描いたりしました。
次にドイツ語力を試すテストが行われます。実際には先生が言った長めのドイツ語の文を復唱する他、名詞の複数形を答えたり、先生が故意に間違えた言葉を正しく言い直したりなどします。
最後に身体チェック
反復横跳びや片足で立ったり、ジャンプをして、全ての検査が終了しました。
先生から「大丈夫です。就学するのにまったく問題ありませんよ」と言われましたが、まだ不安は消えず、「でも入学した後、生まれたのが一番遅くなるので心配なのですが」と思わず言ってしまいました。
そんな私に対して「半年くらい早く生まれた子どもと変わらないくらいよく出来ているので、誕生日だけで判断しない方が良い」と言ってくださったことが決定打となり、入学を決心したのでした。
コメント