幼稚園というどんな事をイメージするでしょうか?
「若い女性の先生たちがピアノを弾き、子供たちがみんなで歌う」、「みんなで工作やお絵かきをする」「子供たちは制服を着ておそろいのかばんを持って園バスで登園」という印象があるとは思いますが、ドイツの幼稚園は全くと言っていいほど違います。日本の幼稚園を期待していくと、びっくりしてしまうかもしれません。
それではここではドイツの幼稚園についてお話しします。
何歳から入園するべき?
一般的に、ドイツでは保育園と幼稚園の違いはありません。私は子供が1歳になった時に仕事に復帰しましたので、その時から子供を保育園に預けることになりました。長男が1歳になる直前から慣らし保育を始めたのですが、1か月も経たないうちに慣れてくれました。
入園したばかりの頃は、保育園で病気を頻繁にうつされていたため、仕事に復帰したとはいえ、会社を休むことも少なくありませんでした。その点について会社が理解を示したことには大いに感謝しています。
保育園との契約通り最長で8時間、保育園で過ごせることができるようになったのは入園してから数か月後だったと思います。
場所は家から徒歩10分くらいで、結局就学前までこの保育園に通いました。
入園すべき年齢は各家庭の事情、両親の仕事の状況、子供の性格によってそれぞれ異なりますが、ドイツでは1歳を入園する基準にしている人が多いです。
その理由についてご説明しましょう。
1歳から入園するケースが多い理由
理由①:両親手当の制度
1歳から入園するケースが多い理由の一つに、ドイツには両親手当(Elterngeld)という制度があることがあげられます。簡単に言うと育児手当なのですが、前年度の平均給与額の67%(給与額によって多少違いはあります)が国から支給される制度です。
支給期間は母親あるいは父親のどちらかだけしか受給しない場合は12か月間まで、どちらも受給する場合はさらに2か月間延長され、最大で14か月まで両親手当が支給されるのです。共働きをしている家庭にとっては大変ありがたい制度です。
この制度が導入される前は育児手当(Erziehungsgeld)があったのですが、こちらは月額300ユーロ程度と支給額が低かったため、育児休暇を取る人はあまり増えませんでした。現在の制度は2007年に導入されたのですが、メルケル首相の第一次政権の目玉政策の一つで国民から特に好評となっている政策です。
今月(2019年4月)の連邦統計庁の発表によると「両親手当のおかげで育児に参加する父親が増えている」のだそうです。「2018年、両親手当を受給した母親は140万人、父親は43万3000人。母親の数は昨年比3%増、父親は昨年比7%増」だそうです。
この数値が表している通り、町中では育児にかかわっている父親の姿を頻繁に見かけます。保育園の送迎では勿論ですが、それ以外にも抱っこ紐で赤ちゃんを抱えながらスーパーで買い物をしている父親の姿もよく見かけます。
理由②:保育園に入れなかった場合、訴訟する権利がある
日本ほどではないですが、ドイツでは保育園や保育士の数がまだまだ足りていず、待機児童となっている子供も多くいます。ただ日本と違う点は「保育園に入園できなかった場合、訴訟を行う権利がある」という点です。
2013年8月からこの法律が改正され、入園する子供の対象年齢が1歳に引き下げられました。つまり1歳になった時点で保育園に入園できなかった場合は訴訟できるようになったのです。そのため1歳で入園する事が多くなっています。
地域によって違いはあり、早く入園させない地域もあります
もっともドイツ南部のバイエルン州では「子供は小さいうちは母親が育てるべきだ」という考え方が強く早くから入園しない家庭も多くあります。バイエルン州はカトリック教信者が多く、保守的な考え方をする人が多いのですが、育児に関する考え方にも表れています。
またドイツが東西二つの国に分かれていた時代の話にさかのぼりますが、当時は東西ドイツでまったく状況が違いました。女性が就業するのは当然であった東ドイツの保育園は充実していました。一方で西ドイツでは「3歳になるまでは母親が育てる」という考え方が強く、保育設備は整っていませんでした。
これはあくまでも私の個人的な意見ですが、もし子供の親のどちらか、あるいは両方がドイツ人でない場合は早めに入園することをおすすめします。
理由は簡単で、子供が小さければ小さいほど、社会への順応性が高いからです。ドイツ語の発達ももちろんですが、コミュニケーションの取り方や子供同士の遊びでのルールなど、ドイツ社会に入っていくためのスタートとなる基盤が保育園には山のようにあるのです。
自分の子供を見ていて思うのですが、小学校に入った時点で子供は子供なりの社会性を十分に身に着けています。これらを小さいうちに自然に身につけておけば、小学校に進学した時に違和感なく小学校生活を送れるのではないでしょうか。
一か月で退園してしまった難民の兄弟
長男が5歳だった時、日本でいうと年長さんの時の事でした。ある日、シリア出身の難民の兄弟が長男のクラスに入園してきました。お兄さんは長男と同じで5歳で妹は3歳でした。お兄さんは少しずつドイツ語を話せるようにはなってきてはいたのですが、お友達の輪になかなか入ることができず、長男が友達と一緒にレゴで遊んでいる中にやってきては全部を壊してしまうということを繰り返していたそうです。
そのような感じだったせいか、お兄さんはますます孤立してしまったそうです。先生が仲を取り持とうとしてもダメで結局お友達はできませんでした。一方で3歳の妹はいつもニコニコしていてすぐにお友達もでき、楽しそうに通っていました。
詳しい理由はわからないですが、結局この兄弟は一か月で退園して他の保育園に移ったそうです。一概には言えないですが、兄弟で対照的なこの光景を見た時にやはり早めに入園した方がいいのかなと思ったものです。
もっとも今になっては、この男の子は母国で何かトラウマを受けるような経験をしていたのかもしれないとも思っています。また、新しい環境に馴染めるか馴染めないかは子供の性格に因る部分もかなりあると思います。
保育費の有無は連邦州によって異なる ベルリンは無料
連邦制国家のドイツは州ごとに政策が異なるのですが、調べてみたところ保育費の事情もずいぶん違うようです。
例えばベルリンの場合、2018年8月からは保育費は無料になったそうです。それ以前は1歳未満の子供は有料だったようですが、それもかからなくなったとのことです。
私が子供を通わせていたころは、3歳からは無料でそれ以前は収入に応じた保育費を納める方式でした。最も私立幼稚園の場合などは事情が違うことも考えられますので、入園前によく調べた方が良いでしょう。
バイエルン州の場合は保育費の廃止の予定はないものの、就学前の子供には州から補助金が出ます。月額一人当たり100ユーロ支給される他、収入に応じて家族手当が月額250ユーロから300ユーロくらい支給されるそうです。
通園の方法
幼稚園バスはありませんので、保護者の同伴が必要となります。
子供が小さいうちはお母さんのバギーで登園しますが、3歳くらいになるとキックバイクや自転車などで通園する子供たちが多いです。
日本の幼稚園では靴箱の前でお母さんとバイバイするケースがほとんどだと思いますが、ドイツは更衣室で着替えを済ませて教室の前まで連れていき、先生に引き渡します。
制服は無く、遊びやすい格好で通園
これまでにいろんな保育園をみる機会がありましたが、紺のブレザーのような日本の制服がある保育園はありません。調べたところ、制服がある園もあるようですが、制服といえども園の名前がかかれているTシャツだけで下は自由といった感じです。
以前に読んだことがあるのですが、ドイツ人は制服に対してナーバスな傾向があり、それは歴史的背景によるものだそうです。ヒトラーが総統だったナチス政権時代にナチス党の青少年組織、ヒトラーユーゲントが制服を着ていたことを連想させるからだそうです。今でも保育園や小学校で日本の私立小学校のような制服がまったくないのは、そのことが関係していることが考えられます。
「みんなで何かをやる」のはあまり無く、個人主義が多い
日本の幼稚園では壁一面に子供たちが描いた絵がきれいに飾られている教室などをよく見かけますが、ドイツの幼稚園(保育園)では事情が異なります。
自主性を重んじる個人主義の考えからか、もし子供が工作やお絵かきなどを「やりたくない」と言ったならば、先生はそれを強制することはしない方針です。
私は最初、その考え方になじめませんでした。更衣室や教室の壁一面に貼られている絵の中に自分の子供だけの絵が無いので、慌てて先生に聞きに行くと「〇〇はやりたくないと言ったから描いてない」とだけの返事。「え!?」とは思ったものの、何年か経つうち次第に仕方ないと思えるようにはなりましたが、母親の立場からするとやはり残念ですよね。
保育園がお休み:先生の講習やストライキ
ドイツの保育園では閉園になることが年に何度かあります。
子供が通っている時に保育園がお休みになってしまうということが、何度あったことでしょうか。理由はさまざまですが、特に多かったのが保育士のための再教育として講習会が開かれるために閉園するというものです。しかも土日をはさんで一週間まるまる閉園してしまうという事もありました。
次に多かったのが、保育士が賃上げ要求のストライキをするために閉園するというものです。保育士の労組がベルリン市全土でストライキをするということで、「緊急の場合だけ子供を預かれるが、それ以外は子供を登園させるのは控えてほしい」ということでした。
我が家に限らず、大半のお友達家族が共働きのため、保育園が閉まるたびにお互いに子供たちを預かったものです。午前と午後、交代で子供数人を家で預かったり、自分の子供をお友達の家でみてもらって仕事に行くなどしていました。
最近、ドイツではホームオフィスという言葉が普及しつつあります。意味は「会社に行かず、家で仕事をする」ということです。会社に事情を説明し、子供たちを家で遊ばせながら、別部屋でホームオフィスで仕事をしたことも何度もあります。
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