皆さんは「ホームブリューイング」という言葉を聞いたことがありますか?日本語にすると「自家醸造」。家で材料を発酵させて、アルコール飲料を作ることです。
アメリカでは今、ホームブリューイングで自家製のビールを作ることが静かなブームです。この記事では、市販されているホームブリューイングキットを使って、アメリカの家庭でビールを作る方法をご紹介します。
個人でのビール作り、違法じゃないの?
日本では、発酵によってアルコール分1%以上のお酒を作ることは、法律で禁じられています(2017年現在)。
しかし、アメリカでは自家醸造(home brewing)が許されており、多くの州で、年間100ガロン(約378リットル!)の上限を超えなければ、個人で材料を発酵させてアルコール飲料を作ることができます。
法律の範囲内で行うホームブリューイングには、特別な許可や免許証は不要。
材料と道具、そして、少しの時間・場所(後ほど説明します)さえあれば、誰でも「自分だけのビール」を作ることができます。
American Homebrewers Association(アメリカ自家醸造家協会)の調査では、現在、アメリカ全土で120万人以上の人々がホームブリューイングを楽しんでいるそうです
キットを使ったホームブリューイング
ホームブリューイング人気が高まるにつれ、家庭で気軽に醸造を楽しめるよう、道具や材料の通信販売も盛んになってきています。
大手ショッピングサイト Amazon.com のホーム・キッチン用品ストアにも、「Beer Brewing」というカテゴリーがあり、複数の会社から販売されているブリューイング用品を探すことができます。
長年、ホームブリューイングを楽しんでいるアメリカ人たちの話では、初心者の場合はまず、市販のキットを使って始めるのが良いとのこと。
キットの中身は会社によって違いますが、麦芽やホップ、酵母などの材料と、麦芽を煮込む寸胴鍋、発酵のための容器、瓶詰め(ボトリング)のためのチューブやサイフォンなどが入っています。
キットを購入して材料や用具を揃え、慣れてきたら、自分で好きな材料を買い足してアレンジするのがおすすめです。
作るビールの種類を選ぶ
アメリカ在住のビール好きの皆さん、ホームブリューイングに興味が出てきましたか?
初めてのホームブリューイングが成功するかどうかは、作るビールの種類選びにもかかっています。
使う酵母の種類によって、ビールは「エール系」と「ラガー系」の2つに大きく分かれ、発酵のさせかたが異なってきます。
「家庭でうまく発酵させられるか」を考えると、最初のホームブリューイングのためには、エール系のビールを選ぶのがおすすめです。
エール系のビールは、コクのあるフルーティーな風味が魅力です。
酵母が温度変化の影響を比較的受けにくく、人間の生活環境に近い温度で発酵が進むので、初心者でも失敗が少ないのが特徴。
気温の低い時期・地域でも、室内の暖かい場所に置いたり、保温器具(熱帯魚飼育用のヒーターなど)を使ったりして、適温を保つことができます。
エール系のビールの仲間には、滑らかな味わいのペールエール、まろやかで香ばしいブラウンエール、濃厚なスタウト、ホップの苦味が強いIPA(インディアペールエール)などがあります。
一方、慣れてきた後に挑戦してみたい「ラガー系」のビールは、すっきりとした口当たりと喉越しが特徴です。
日本の大手メーカー製ビールは、ほとんどがこのラガー系。
懐かしの日本のビールの味を味わえるかもしれない…という点は魅力的ですが、酵母が温度変化に敏感なので、初心者には不向きなのだとか。
また、低温で長時間発酵させる必要があるため、寒い地域で行うか、専用の醸造容器(もしくは、冷蔵庫を改造した保管庫)を用意することになります。
キットを使ったビール作りの流れ
ホームブリューイングを試してみたい方のために、必要な作業と時間の目安を、大まかに示します。
1.仕込み《2〜3時間》:
麦芽を数十分〜1時間ほど煮込み、麦汁(wort)を作る。麦汁を冷ましたら、酵母と他の材料を入れて発酵容器に入れる。
穀物を目の粗い布袋に入れ、1時間かけて煮出します。
2.一次発酵・二次発酵【2〜3週間】:
発酵容器に入れて蓋をした状態で、2〜3週間置いて発酵させる。
醸造容器の上には、外気を防ぐトラップを取り付けます。(写真は水を注ぐ前の状態)
3.加糖・瓶詰め《3〜4時間》:
ビール液に糖分(砂糖、もしくはハチミツなど)を足し、瓶に詰める。この糖分は、味つけのためではなく、炭酸のきいたビールを作るためのもの。
これから容器の下の方にあるコックを開け、糖分を足した液を、静かに瓶に注いでいきます。
4.瓶内発酵による炭酸ガス生成【3〜4週間】:
蓋をした瓶は、冷やさずに3〜4週間置く。その間に、酵母が糖分を分解して炭酸ガスができる。
5.完成!:
4が終わった後、冷蔵庫に入れて冷やしてから飲む。
手間がかかるのは、1)仕込み と 3)加糖・瓶詰め のステップ。それぞれ数時間ずつの作業です。ちょっと大掛かりな料理や家事をする…というイメージで、休日の午後などを充てるのが良いかと思います。
一方、間にある 2)発酵 と 4)炭酸ガス生成 のステップは、温度にさえ気を配れば、発酵容器や瓶を置いておくだけで大丈夫です。
期間を多少延ばすこともできるので、1)と3)の作業に充てられる日を探し、それに合わせてスケジュールを組むのがおすすめです。
キットを購入して、いざ醸造!
では、実際のビール造りの様子を、ほんの少しだけご紹介します。
今回は、琥珀色のエール、「アンバーエール」を作った際の写真を使用しています。
ブリューイング用品販売大手の「Northern Brewer」から、必要なものがほぼ丸ごと(※)入った、5ガロン(約19リットル)のキットを購入しました。価格はおよそ100ドル。
※空のビール瓶と、料理用の温度計だけは、キットとは別に用意する必要があります。
このキットで、アメリカで一般的な12オンス瓶(容量は約355ミリリットル。日本のビール小瓶とほぼ同じ大きさ)に45〜50本分ほどのビールができます。
空のビール瓶は、Amazon.com で、48本(24本入り2箱)を24ドルで購入しました。
実際の作業のコツは、
- 器具をよく消毒すること
- 発酵のための期間(特に手順4)を長くとること
です。
ビール造りは酵母が命。
もし、他の菌が混入してしまった場合、目的のアルコールではなく、酢酸など、別の物質ができてきてしまいます(失敗した人の話では、ビールではなく、酸っぱい液ができてしまうとのこと……)。
そのため、発酵容器だけでなく、液の温度を測る温度計や、液を移し替えるためのポンプ、チューブ、瓶や蓋まで、材料に触れるものは全て殺菌する必要があるのです。
今回使用したキットには、粉末の酸素系洗剤がついていて、手順1と3の際に、水に溶かして使いました。(この洗剤は、口に入っても問題ないそうです)
また、発酵期間を多少長めにとることも、味を向上させるコツかもしれません。
ビールの肝ともいえる、炭酸ガスを発生させる過程(手順4)は、液を瓶に詰め、蓋をした後に進んでいきます。
瓶に注いだ後は、専用の器具で蓋(王冠)をはめていきます。これから数週間寝かせて、糖分がすべて炭酸に変わったら、完成。
途中で中を確かめることはできないので、実際に味わうまでには充分な時間を置くのが良いでしょう。
今回使用したキットの説明書には「2週間以上」と書いてありましたが、経験者の話では、長めに1ヶ月ほど寝かせるのが安心だそうです。寒い地域では、毛布をかぶせるなど、適度な保温に気をつけてください。
今回醸造したビールは、瓶に詰めてから4週間後に開栓しました。
冷蔵庫で冷やしてから蓋を開けると、プシュッと心地良い音が。香ばしい風味に酵母の香りが混じり合い、フルーティーで複雑な味わいになっています。
全部で45本できたので、ホームパーティーで出したり、日本への一時帰国時のお土産にしたりと、友人や家族にも楽しんでもらえそうです。
まとめとお役立ち情報
アメリカ在住の皆さん、家庭で本格的なビールを作れるホームブリューイングにぜひ挑戦してみてください。
次は、あなたがオリジナルビールを作る番です!
ホームブリューイング用品メーカー大手、「Northern Brewer」のウェブサイトはこちら(https://www.northernbrewer.com/)。
Amazon.com では、「Home & Kitchen」>「Kitchen & Dining」>「Home Brewing & Wine Making」と選択していくと、ホームブリューイング用品を探すことができます。
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