11月の第4木曜日は、アメリカの文化に深く根ざした祝日、「Thanksgiving day(サンクスギビング・デイ)」です。
日本語で「感謝祭」とも呼ばれるこの日は、アメリカ全土で多くの人々が里帰りし、家族や親戚とともに過ごす休日になっています。
この記事では、アメリカで暮らす人々がサンクスギビングをどのように過ごしているか、習慣や伝統料理などを紹介しながらレポートします。
サンクスギビングの由来
日本ではなじみの薄い感謝祭(サンクスギビング)ですが、アメリカの人々にとっては、もっとも重要な祝日の一つ。
いったい、サンクスギビングにはどのような意味合いがあるのでしょうか?
その由来には、かつてイギリスからアメリカに渡ってきた人々と、アメリカの先住民たちの歴史が関わっています。
16世紀から17世紀にかけて、イギリスで教会の改革を主張した「ピルグリム(清教徒)」と呼ばれる人々がいました。
彼らは、弾圧から逃れ、信仰の自由を得るために、遠く離れたアメリカに船(メイフラワー号)で渡り、上陸先の土地を開拓して暮らそうとしました。
ところが、悪天候などによって、彼らは目的の入植地よりもずっと北の土地に上陸することになってしまいます。
季節もすでに冬になっており、人々は船の中で寒さをしのごうとしましたが、病気や飢えにより、およそ半数が命を落としました。無人となっていた先住民(ネイティブ・アメリカン)の村を見つけ、その備蓄食糧に手を出してしまったことも、大きな問題となりました。
翌年、別の場所に移動したピルグリムたちは、現地にいたネイティブ・アメリカンの部族から援助や教えを受け、耕作や狩猟による生活を始めます。
慣れない土地での苦労を乗り越え、秋には収穫を得ることができたピルグリムたち。彼らはそのことに感謝し、ネイティブ・アメリカンの部族長らも招いて祝宴を開きました。
これが、サンクスギビングの起源だとされています。
サンクスギビングは「家族団らんの日」
サンクスギビングの基礎を作ったのは、信仰の自由を求めてイギリスからアメリカへ渡ってきた人々でした。
しかし、現在では「家族が集まり、共に過ごす日」という意味合いが中心となり、さまざまな宗教・宗派の人たちが、それぞれの家庭でサンクスギビングを祝っています。
サンクスギビング・デイの祝日は、11月の第4木曜日。
日本でのお盆や年末年始と同じように、アメリカでは、サンクスギビングの時期が大型の帰省ラッシュシーズンになります。
国内線の航空券の値段は高騰し、道路は、故郷を目指す人々の車で大渋滞。できるだけ混雑を避けようと、サンクスギビングの数日前から休みをとる人も少なくありません。
とはいえ、広いアメリカ国内を見渡せば、仕事の休みがどうしてもとれなかったり、実家が遠かったりして、サンクスギビングに合わせた帰省ができない人たちもいます。
そうした人々は、同じ境遇の同僚・友人どうしで料理を持ち寄るなどして、仲間とサンクスギビングを過ごすことが多いようです。
通常の休日・祝日とは違い、サンクスギビング・デイの当日は、スーパーマーケットやデパートのほとんどが店を閉じています。
その理由は、
- 外に出かける人自体が、そもそもあまりいない。家に家族が揃い、時間をかけて特別な料理を作るのがサンクスギビングの伝統となっている。
- 店の従業員たちにとっても、家族とゆっくり過ごしたいという思いが強い。
といった点にあるようです。
普段は大混雑するショッピングモール前の道路ですが、感謝祭当日には走っている車が見当たりません。
テーブルの中心にはロースト・ターキー
サンクスギビングの日には、「サンクスギビング・ディナー」と呼ばれるごちそうが食卓に並びます。
いくつか代表的な料理がある中で、アメリカの人々が「これぞサンクスギビング!」と考えているのが、七面鳥(ターキー)をローストしたもの。
スーパーマーケットには、10月ごろから、ほぼ丸ごとの生ターキーを冷凍し、ビニール袋で包装したものが並び始めます。
「ほぼ丸ごと」と言っているのは、調理のための工夫がしてあるから。
感謝祭の伝統料理といえば、ローストした七面鳥(ターキー)。足の間にのっている付け合わせ(スタッフィング)は、細かく切って乾燥させたパンです。
冷凍ターキーのお腹の中には、ビニールパウチに包まれた「せせり」や「もつ」(=首と内臓)の部分がしまわれています。この部分は、よく炒めて煮込み、ロースト・ターキーにぴったりのグレイビーソースを作るために使います。
冷凍ターキーは、一晩から数日かけて、ゆっくりと時間をかけて解凍するのが良いとされているそうです。
家庭によって、父親、母親、祖母など、ターキーの調理を担当する腕自慢がいて、おいしく焼くための秘訣を持っているのだとか。
ロースト用の冷凍ターキーを購入すると、その体に赤いピンが刺さっていることがあります。これは、焼き加減を知らせるための目安。ピンの頭が外に飛び出してきたら、ロースト完了です。
調理の秘訣は家庭によってさまざまですが、それらの間で共通しているのが、ターキーのジューシーさを保つこと。
「前日に水に漬け込んでおく」
「焼く時に、ターキーのお腹の中に根菜を詰める」
「コーラの缶の蓋を開けたものを、ターキーのお腹の中に詰めて焼く」
など、水分を補充しながら旨味を足す工夫をしているようです。
時間をかけて焼き上げたターキーは、グレイビーソースや、クランベリーソースを添えて食べるのが定番です。
ターキー用のソースは、クランベリーを煮詰めて作る甘酸っぱいクランベリーソース、そして、内臓や肉を使ったグレイビーソースの2種類が定番です。
秋の恵みを使った副菜とデザート
さて、メインのターキーの他にも、サンクスギビング・ディナーには定番の食材や料理がいくつかあります。
まず、ターキーを引き立てる名脇役となっているのは、マッシュポテトです。
ターキー用に作ったグレイビーソースをかけて食べると、まろやかで旨みのある味わいに。
ジャガイモに加えて、オレンジ色のサツマイモ(ヤム:yam)も、サンクスギビングの食卓を飾る重要な食材の一つです。
定番のメニューは、薄切りにしたヤムに、マシュマロやザラメ糖をのせてオーブンで焼いたもの。デザートに近い一品です。
「キャセロール」と呼ばれるオーブン料理は、アメリカの家庭の味となっていて、サンクスギビング以外の場面でもよく登場します。
大型のグラタン皿のような、陶器や耐熱ガラスの深鍋に材料を入れ、オーブンで焼き上げるのが特徴。味や具はさまざまですが、サンクスギビング・ディナーには、いんげん豆とホワイトソースのキャセロールが人気のようです。
食卓には、オーブンから出したアツアツの鍋をそのまま置き、各自が皿にとって食べていきます。
ターキーの付け合わせに使う「スタッフィング」。本来はターキーの中に詰めるものですが、ターキーを上手に焼くためには、詰めずに添えるのが良いそうです。
ちなみに、人々がサンクスギビング・ディナーを食べるのは、夜に限りません。
本来、「ディナー(dinner)」という言葉は、1日の中のメインとなる食事のこと。お昼や午後の早い時間にサンクスギビング・ディナーをとり、夜は軽い夕食(supper:サパー)で済ませたり、お茶を飲むだけにしたりという家庭も多いようです。
サンクスギビング・ディナーのメニューには秋らしい食材を使ったものが多く、「収穫に感謝する」という本来の意味合いを思い出させてくれます。
秋の味覚であるカボチャも、「感謝祭らしい」食材の一つ。ハロウィンシーズンから引き続き店頭に並びます。
まとめ
アメリカの文化に深く根ざした、サンクスギビングの伝統。
もし、11月の第4木曜日を現地で過ごすことがあれば、この記事の内容を思い出してみてください。
普段なら開いているお店が、サンクスギビング・デイに限っては閉まっていることもありますので、お出かけの際はご注意を!
いつもより静かになった街の中で、アメリカの歴史や家族のことに思いを馳せてみるのも良いかもしれません。
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