日本には中央競馬会(JRA)と、全国数十の地方競馬が存在しています。しかし、北海道帯広市には世界でここだけで行われている「ばんえい競馬」が存在します。現在は北海道遺産にも認定され、筆者も大好きな迫力と感動の「ばんえい十勝」を久々に体感するために、3月中旬、帯広競馬場を訪れました!
北海道開拓があるからこそ生まれた競技
「ばんえい競馬」は戦後の1947年から公営競技として北海道で行われてきました。ルールは簡単です。200mの直線、セパレートコースに、重りをつけた馬ソリをつけた馬が、1着を競うレースです。コースには約1mの高さの第1障害と、2mの第2障害があります。ソリの一番後ろが入った時点がゴールとなります。
北海道には元来、馬は存在しませんでしたが、明治期の開拓時代、北海道和種の道産子(ドサンコ)と、力のある馬が必要だと、フランスから大型馬のペルシュロン種を輸入。彼らが北海道開拓に大活躍したのです。そして各農家などが、自分の馬の力自慢を競うために始まったのが「草輓馬(ばんば)」の競争でした。これが「ばんえい競馬」の起源となっているのです。
当初は、旭川市、岩見沢市、北見市、帯広市の4場主催で開催されていました。しかし、慢性的な経営難のため、2006年に旭川、岩見沢、北見が運営から撤退。廃止の危機陥りましたが、民間企業の支援もあり、翌2007年から帯広の1場のみで開催されることになりました。そして「北海道の馬文化」として北海道遺産にも認定。現在は「ばんえい十勝」として、ほぼ通年開催され熱心なファンに愛されています。
日本で最も馬と触れ合える競馬場かも
筆者が帯広競馬場に訪れたのは3月18日。20日に「ばんえいの有馬記念」と言われる、ばんえい最高峰のレース「ばんえい記念」がある開催週で、お祭りムードが高まっていました。
筆者も一時期、競馬関係の仕事に携わっていましたが、同競馬場は10数年ぶりです。ばんえい記念の当日は全国からファンが集まり、4000人余りのキャパのスタンドが埋まる名物レースとなっています。筆者もばんえい記念をぜひ見学したかったのですが、仕事の関係で見られなかったのが残念。本当に感動するレースなのです。その理由は後述します。
さて、久しぶりに訪れた帯広競馬場でまず感じたことは、馬と一番触れ合える競馬場に変化したなあ、ということです。競馬場の入り口付近に、馬車を引く輓馬(ばん馬)がいて、触ったり、餌のニンジンを与えることができます。
彼は馬車を引くキング号です。お客さんが与えるニンジンをバクバク食べる大食漢です。またがることもできます。ばんえいの馬は先ほど述べたペルシュロン種のほか混血のブルトン種で、2歳のデビュー時800~900㎏、大人になると1000~1200㎏と通常競馬のサラブレッドの2倍以上の大きさです。初めて見る方は迫力に圧倒されるかもしれません。このキング号が競馬場回りをお客さんを乗せて回ってくれます。
歩くだけではなく、調子に乗ると結構なスピードで走ってくれます。馬車に乗った方は気持ちよかったはずです。
また、ばん馬などと触れ合える「ふれあい動物園」があり、ばん馬やポニーなどと文字通り触れ合えるスペースがあります。
ここの目玉は、ばん馬の「リッキー号」かもしれません。現役時の戦績は139戦6勝人間にすると19歳と人間でいえば70歳近い老齢ですが、彼は帯広市から特別住民票を与えられ、広報活動も行っています。
2月下旬に行われた冬季アジア札幌大会で、帯広はスピードスケート会場となりました。その閉会セレモニーで彼はメダリストを馬ソリに乗せ、スケート場内を1周するという大役を果たしました。顔にもまだまだ精悍さが漂い、簡単には触れさせてくれませんでした。各種の馬以外にも、なぜかウサギが愛くるしい姿を見せてくれます。
ここでは100円で馬やウサギにニンジンを与えることができますよ。
興味深いバックヤードツアー
これは開催ごとに行っていますが、500円で、普通は入ることができない場所を見学できる「バックヤードツアー」も行っています(1日20人限定)。第1レース終了後に集合し、ガイドさんがいて、レース前に出走馬の馬体重を測ったり、馬具を装着する装鞍所(そうあんじょ)を案内してくれます。筆者も参加してみましたが、ばんえい記念ウィークとあって、多数の見学者がいました。
その後はバスに乗り、競馬場横にある厩舎棟をバスで見学します。
たくさんある馬ソリは練習用のソリです。年季が入ってますね~。ソリだけで200㎏はあり、その上に載っているコンクリートブロックは1つ100㎏の重さがあるそうです。馬は体温が高いため、気温の低い夜中2,3時ぐらいから調教を行っています。
見学バスの目の前をばん馬が通ります。厩舎棟内は馬が優先。バスは止まらなければなりません。馬は敏感な動物なので、人間も走ったりしてはいけません。ばんえい十勝は現在、馬が650頭、そして29の厩舎に250人以上が携わっています。
調教中のけがや病気で亡くなった馬達を祀る馬頭観音があるのも印象的でした。馬の名前を書いた卒塔婆がたくさんあります。最後は、4階の馬主席などがある棟の元実況席から抜群の眺めでレースを観戦し、ツアーは約50分で終了。クリアファイルのお土産つきでした。廃止寸前から立ち直り、現在は充実したサービスでファンを引き付けているように思いました。
速さではなく「力」を競う唯一の競馬
さて、肝心のレースを紹介しましょう。前述したように「ばんえい競馬」は重りを載せた馬ソリを引いて、2つの障害を越え勝負を競うレースです。1着を目指すのは普通の競馬と同じですが、速さを競うのではありません。いかに重量のあるソリを挽いて勝つことができるかという、力比べのレースなのです。なので、デビュー時は500㎏程のソリを挽きますが、勝ち続けてクラスが上がるとソリの重量も増してきます。そして、ばんえい最高峰のレース「ばんえい記念」は、何と1トンの重りを載せたソリを挽く、過酷かつド迫力のレースとなります。
ばんえい競馬のパドックはゴール前にあります。レースーコース脇の馬道を通って、ゲートに向かいます。
ばんえい競馬はフルゲートで10頭です。ゲートに入り、一斉にスタート。この日は馬場の水分が乾いていたので、土煙が上がり、迫力があります。
高低差の低い第1障害はどの馬も難なくクリアーできます。
ばんえい競馬は実は第1障害をクリアーしてからが見ものです。第2障害までの直線で、この最大の難関、第2障害を越えさせるために、何度も馬を止めて息を入れます。ほかの競馬にはない「止める」ことが重要で、通常の競馬とは真逆なところ。ここに騎手の技量が問われます。
第2障害はどんな馬でもひと息には越えられません。ここでも騎手は何度も手綱を引っ張り、馬の力をため、時には息を入れ数度のトライで障害を越えさせるのです。
この第2障害がばんえい競馬の大きな見どころ。通常の競馬と違い、目の前で1トンの馬がド迫力で登坂する姿は初めて観る方には新鮮な驚きを与えるでしょう。
また面白いところは、第2障害を先に越えても、ゴールまでの直線でバテて止まってしまい、逆転されてしまうシーンが多いのも面白いところ。ばん馬にも障害が得意なタイプとラストの直線の追い込みが得意な馬もいます。
前述したとおり、ゴール板を馬ソリが完全に超えないとゴールになりません。最後まで一発逆転があるのも魅力的です。ですので、スピードの遅いばんえい競馬は、スタートからゴールまで、観客も一緒についていきながら、賭けた馬や騎手に声援を送るのです。第2障害と、ゴール前で声援はひと際大きくなります。ちなみに、ばん馬の機種は鞭で馬のお尻を思い切り叩いていますが、ばん馬は皮膚が厚く、新聞紙を丸めて叩くぐらいの衝撃しか感じていないそうで、平成20、21年の実験で証明されています。動物虐待には当たりません。
ナイターや薄暮開催に、個人協賛レースも受け付け
「ばんえい十勝」はほぼ4月下旬から翌年3月下旬までほぼ通年開催されています。コースにヒーティングシステムを導入したことにより凍結の心配がなくなったからです。現在は夏場はナイター開催、冬場は薄暮開催が行われています。この日のメーンレースも、日は沈み、薄闇の中の開催で、照明にライトアップされた馬が、イルミネーションされた中を走る姿も印象的でした。ちなみ筆者は3レース勝負しましたが、すべて1着3着とはずれ、馬券下手を露呈してしまいました。
また、レースは個人協賛も受け付けていて1口1万円から申し込みできます。自分の好きな冠レースを名づけられますし、勝利馬と記念撮影もできます。
十勝に来たなら観るべき「ばんえい記念」
今回は、筆者も見られませんでしたが、競馬好きの方や、春に十勝観光に来られた方は「ばんえい記念」はぜひ観てほしいレースです。総重量1トンの重りを引っ張るレースは、直線を挽くだけでも大変です。そのため平場の低重量のレースよりタイムはものすごく遅くなります。何十回も息を入れながら直線を走り、障害も、力自慢の同競馬の有数の強豪馬でも時には足を折りながら、あらん限りの力を振り絞って越えていきます。騎手の技量と馬の息がピッタリ合った馬がゴールにたどり着けるのです。第2障害を越える姿は、心の底から湧きあがる原始的な感動を呼び起こし、涙を流して応援する方も多いです。そして、最下位でも最後まで完走する馬には最後まで歓声が送られます。完走するのも大変なレースだからです。3月20日のばんえい記念優勝馬は7歳とばん馬では俊英のオレノココロでした。引退レースとなり10年間ばんえい十勝を引っ張ってきたキタノタイショウが2位に粘り込んだのも印象的でした。
まとめ
ばんえい競馬に興味がある方は、ばんえい記念ウィークがやはりおススメ、十勝うまいもの市など、十勝のグルメを安価で満喫できるコーナーもありイベントが盛りだくさん。普段も競馬場の隣には十勝の農産物を安価で買える「とかち村」や馬の資料館もあり、本当に楽しめる競馬場だと思います。ちなみに、熊本県の名産は馬刺しですが、大抵、ばんえい競馬の能力検査(2歳時の4月)に落ちた馬が、馬肉になっています。
▽スポット情報
帯広競馬場
住所:北海道帯広市西13条南9丁目
TEL:0155-34-0825
URL:http://www.banei-keiba.or.jp/index.html(ばんえい十勝オフィシャルサイト)
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