イタリア人は個性的で陽気な国民性で、日本人はまじめな国民性だと言われますが、イタリアの自由な学校事情を知るにつれ、学校教育が反映しているような気がします。日本とはまるで違い制服もなく、学校指定の持ち物もなくクラスによって方針が違うという学校生活は、他人と一緒であるという価値観をまったく生み出さないのでしょう。夏休みは3カ月と長いけれど勉強は意外と厳しく留年もありうるイタリアでは、6歳から16歳までの10年間、という期間で義務教育を定めています。このイタリアの義務教育のスタート小学校についてご案内します。
5・3・5の教育制度
イタリアの小学校は5年間で中学校は3年間、そして高校が5年間ですが最初の2年間までの10年間が義務教育です。ところが学校の授業時間数は、それぞれ個人によって異なります。基本的に小学生は1日授業を受けるコースだと週に40時間制、または半日だけ授業を受けるコース24時間制、27時間制、30時間制のうちから、入学前に希望を提出します。始業時間も学校によって異なり、8時、8時15分、8時30分~と学校によってそれぞれ決められています。
新年度は9月初旬から始まり6月の初旬まで続き、約3か月の夏休みがあります。基本的に土、日は休みのほか、各州ごとに新学年の初日、最終日、20日間ほどのクリスマスバカンス、日本の春休みに当たる8日間ほどの復活祭のバカンスが決められています。また、学校ごとに休みが決められるので、年5日間の国の祭日が飛び石連休になることがないように、休みを各校で調整して連休にするのです。よって州だけではなく、同じ市内でも通う学校によって休みの日が異なります。
同じ学年でも年齢がまちまち!
小学校は基本的に同じ年に生まれた1月生まれから12月生まれまでが同学年で、9月に5歳9か月から6歳8か月までの子が小学生になります。ところが、1月から4月30日生まれまでのいわゆる早生まれの子供は、希望すれば飛び級のような形で、1年早く小学生になることもできるので、一番早い1月生まれの子供と比べて1歳4か月も小さい場合もあるのです。また、特に移民などの外国人の子供は小さい学年のクラスに転入したり、小学生でも留年することもあるので、クラスみんなが同じ歳ということはないのです。
就学年齢が親の考え方によって異なるので、国から就学の連絡が来ることはなく、各自が市に入学希望の申し込みをします。1月中旬頃にコンピューターによる一斉オンライン申し込みです。各自の住所によって市の選定する学校がありますが、希望する授業時間などが合った学校、または親の職場の近く、祖父母の住所の近くなど、それぞれの希望に応じて申し込めます。日本と違い、1つの学校に希望が集中するということがあまり起こらないのが不思議です。
団体行動のない学校生活
イタリアの学校には校歌も校章も校則も制服もありません。学校全体での遠足や修学旅行はなく、担任の先生の判断に任されています。どうして学校全体で行かないのかと聞いたら、大勢だと混乱するしそれぞれで行きたい場所も時期も異なるので大勢で行く意味がない、と言われてしまいました。あまりにも落ちつきのない子が多いので先生も行きたくないという理由で修学旅行のない場合もあります。
入学式も、卒業式も、運動会も、文化祭も、朝礼もないので、大勢で行進したり行列を作るという団体行動の経験のないまま学校生活を過ごします。オリンピックの入場行進の時に、日本選手団はきちんと行列を組んでいるのに、他国の選手はだらだらしている印象がありましたが、こういう学校生活が反映しているのでしょう。
口頭試験で自分の発言を!
基本的に少人数教育で、1クラスは20人前後です。クラス替えがないので、基本的には同じ先生と同級生で5年間を過ごします。指定で揃えなければならないものは何もなく、通学にはランドセルのような背負う形のリュックサックか、小型のスーツケースのようなカバンが主流です。指定体育着もないので、それぞれが朝着てきたままの動きやすい服装で体操をします。人と同じことは何もないのです。
いわゆるペーパーテストは、2年生と5年生の時に国の共通試験があるだけです。小学校3年生からは毎週のように口頭試験が始まりますが丸暗記ではいけません。先生の質問にいかに要領よく説明できるかがポイントなので、自分の言葉で自分で発言する練習をするのです。イタリア人が口がうまいのはこういう教育の賜物なのかもしれません。
小学校の授業内容
基本的な授業要綱は国が決めていますが、どう教えるかは先生次第。教科書は各先生が選んだものでカラフルな教科書が多いです。休み時間の配分なども先生によって異なります。低学年の間は時間割などもなく、ゆったりしたスケジュールでイタリア語と算数をメインに勉強するのですが、さすが芸術の国でノートには色鉛筆を使ったイラストなどを描いていくことが多く、絵をかくことが日常の一部になっています。
イタリアの学校は歴史に重きを置いていて、3年生になると歴史の勉強が始まります。最初の年はビックバンから恐竜時代、原始の人類まで、4年生で世界の古代文明を、5年生で古代ローマ時代までを学ぶのです。ほか、地理、科学、英語、音楽、体育、美術の授業があります。日本とは違い希望制で宗教教育もあります。カトリックの国ですが、キリスト教だけではなく仏教、イスラム教など宗教全般についての授業です。
イタリアの学校の勉強の内容は、日本に比べて知識の幅は少ないけれど、深くじっくり掘り下げた実用的な勉強する傾向があります。大人顔負けの知識を持っている場合が多くびっくりします。
給食当番も掃除当番もない小学校
午前中に1回、午後に1回、パニーノやビスケット、バナナなどのおやつの時間があり、お昼の時間です。給食は給食室で盛り付け、配膳、片付けとも専任のスタッフにサービスされて食べます。給食は教育の一環ではないので、嫌いな献立を残しても特に先生に何か言われることはありません。給食と言っても、プリモピアットでパスタかリゾット、セコンドとしてお肉料理と野菜の付け合わせ。そしてフルーツかプリンなどのデザートという普通のイタリア料理のスタイルで、牛乳はありません。掃除の時間はなく夕方に掃除専門会社の人たちが掃除をします。
親とのかかわりがとても多い小学生
イタリアの小学生は、法律で18歳以上の成人の送り迎えが義務付けられています。集団登校などもないので、必ず親に付き添われて学校へ向かいます。学校の終了時間には校門前に親が迎えに現れ、大人と一緒に帰宅します。共働きの世帯の場合、お迎えはベビーシッターや祖父母というパターンも多いですが、子供だけで帰宅することはできません。
イタリアでは、小学生や中学生用の学習塾は存在しないので、放課後も子供たちは親と勉強するのが普通です。特に毎週のようにある口頭試験の勉強は子供1人では難しいので親も付き合うことになるのです。イタリアの小学校では、稀ですが勉強できなければ本当に留年する場合もあるのです。毎年学年末に進級か留年か全生徒の名前が学校前に張り出されます。
毎日の通学にも親と一緒で、勉強も一緒に親としているので、イタリアの親子は、日本に比べて仲がとてもいいように思えます。登校時に別れる際とお迎えで会った際に、親子で仲良く頬にキスを交わしている光景は、とても微笑ましく思えます。もし、イタリア滞在中に学校の前を通ったときは、覗いてみてくださいね。イタリア人の生活の一端が垣間見えますよ。
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