ドイツは本当に休暇大国なのでしょうか?

ドイツ

巷にはドイツは休暇大国と言われる本が出ており、「ドイツ人は年間150日間しか働かない」と書かれているようです。実際のところはどうなのでしょうか。

長年ドイツに住み、仕事も多くしていますので、これについては異議あり!と唱えたいです。私の見解では「イエスの人もいるが、ノーの人の方が圧倒的に多い」です。

雇用形態によって、待遇や働き方はまったく異なる

ドイツで仕事をするといっても形態はさまざまです。本当に優遇されている人はごく一部であるのが実情です。

ドイツの労働形態は大きく分けると二通りあります。
一つ目は雇用契約がある働き方で一般的にサラリーマン、正社員と呼ばれる人たちです。
二つ目は雇用契約の無い働き方でわかりやすい言い方をするいわゆるフリーランス、自営業として働く人たちです。

雇用契約のある形態で働く正社員とフリーランスには主に次のような違いがあります。

ドイツの労働形態:正社員とフリーランスの待遇の違い

正社員フリーランス
医療保険
失業保険
介護保険
年金保険
労災保険
有給休暇有(年間30日程度、土日祝日を含まない)
病欠有(医師からの診断書が必要)
産休(母親保護期間)
両親手当て(育児休暇期間、給与の68%が国から支給される制度)無(自営業保険に加入している場合には支給される)
残業手当て有(残業時間は休暇で消化、あるいは給与に上乗せして支払われる)委託業務の場合は労働時間数とは無関係

つまり雇用契約があり正社員として働く人にとっては、労働環境はとても良いといえるのでしょう。しかし医療保険や失業保険など社会保障費は労使折半で支払うため、社員自身も負担しなくてはなりません。その結果、実情としては正社員の手取りの給料はずいぶんと少なくなります。

ではどの程度、国に持っていかれるのでしょうか?これは既婚か未婚、子持ちか否かによっても異なりますが、高額所得者の場合、給与額の5割以上が社会保障費や税金にかかることになります。

一方、フリーランス形態で働く場合通常は報酬額は正社員よりも高く設定されています。また年間の収入が一定額を上回ると報酬額に付加価値税が加わるため、さらに高くなります。税率は業種により異なりますが、最高19%です。報酬額を19%増で受け取るため、かなり多くなったように感じられます。
しかしフリーランスは高額な医療保険を全額自己負担しなくてはならず、また公的年金などにも加入していないため、私的年金を自己負担で払わなくてはなりません。さらには病気になって労働不可となっても、正社員とは異なりその期間は収入はゼロになります。

祝日の年間日数は州によって違う!

「雇用契約のある形態で仕事をする人」とは別の言い方をすれば正社員ですが、正社員には年間最低24日、通常は30日間程度の有給が認められています。ここには土日や祝日は含まれないため、合計すると年間に休める日数はかなり多くなります。
もっとも祝日の日数は州によってかなり異なります。バイエルン州はキリスト教関連の祝日が多いため、「年間150日間しか働かない」という情報はこの州を基に計算しているのかもしれません。
しかし、私が住んでいるベルリン州は州が定める祝日はほとんどありません。今年(2019年)初めて、3月8日が女性デーとして導入されましたが、それ以外をのぞくと国が制定する祝日しかありません。その祝日も日本に比べるとずっと少なく、10月3日の東西ドイツ統一記念日とキリスト教関連の祝日数日のみです。

正社員の盲点

正社員にもいろいろな形態がある!

しかし、一口に正社員といっても様々な形態があることもお伝えしておかねばなりません。

厳しい試用期間

契約を締結した場合、通常は最初の6か月間は試用期間になります。実際にはこの期間にクビにされるケースが少なくありません。私の友人は試用期間を知らずに、採用されたのをきっかけに遠くの都市まで引っ越したのですが、働き始めてからわずか1か月で解雇通告を受けてしまいました。
雇用主にとっては試用期間を過ぎると解雇しづらくなるため、この期間に解雇するケースが少なくないと聞きます。

期限付き雇用契約

晴れて正社員として働けるようになっても、無期限に保証されるわけではありません。最初のうちは期限付き雇用契約を締結します。期間は通常は2年間ですが、1年間のみの場合もあります。
この期間を過ぎた後、労使双方は再び期限付き雇用契約を締結することができますが、二回目の雇用期間を過ぎた場合、雇用主は被雇用者を無期限で雇うか否かを決定しなければなりません。
ドイツには解雇保護法という労働者を守る法律があります。そのため、無期限の雇用契約を締結した後に雇用主が被雇用者を解雇する事は難しくなります。
もっともこの法律が適用されるのは一定規模を満たす企業であるため、中小企業や個人企業はあまり影響を受けない法律であることもお伝えしておきます。
一般には上記の理由から、無期限の雇用契約を締結する件数はあまり多くないといえます。

パートタイムで働く正社員の数が多い

一般に正社員というとフルタイムで働いているイメージがありますが、ドイツの場合はフルタイムでなくても正社員として働くことができます。例えばフルタイムが週40時間だった場合、ハーフタイムで週20時間だけ働いたり、週30時間の労働であっても雇用契約を締結していれば正社員として扱われることになります。ただし給与額は労働時間に応じて減額されることになります。

実はドイツではパートタイマーの正社員として働いている人が多いのです。15年ほど前からワークシェアリングの傾向が強まっており、フルタイムで雇用した場合にかかる一人のコストを労働時間を短縮して同じ金額で二人を雇うなどといった形態が増えています。この影響で雇用件数が増えたため、現在のドイツの失業率は以前に比べてとても低くなっています。

パートタイマー正社員として働くことは金銭的に問題が無いのであれば、ワークライフバランスを保つうえで理想的であると言えるのかもしれません。私の周囲ではこの形態で働いている人が多いですが、大半は小学校低学年くらいまでの子どもがいる母親です。子どもが学校に行っている間に仕事をすることで、家庭も疎かにせず両立できるのでしょう。

ドイツ特有のシステム、ミニジョブ

ミニジョブとは所得税が課税されない仕事のことを言います。給与額の上限は月額450ユーロでこの額を超えなければ所得税がかかりません。日本でいうアルバイトに近いものです。学生が勉強の合間に働いたり、定職を持っている人が副職として仕事をする場合にミニジョブの形態であることが多いです。
正社員とは異なり、雇用主との労使折半で医療保険、失業保険、介護保険に加入することはできません。しかし年金保険だけは加入でき、被雇用者は給料の3.6%を支払うことになりますが、年金保険の支払いを拒否することもできます

複数の雇用主の下でミニジョブを掛け持ちすることは認められていますが、その場合も給与が月額450ユーロを超えると所得税を支払うことになります。

「ドイツ人は労働時間が短く、日本人は労働時間が長い」のは本当か?

この問いはOECDなどが出している統計の数値だけを見ればイエスですが、私はこの数値は実態を表したものではないと考えています。その理由を以下に記しましょう。

理由 ① 労働時間の統計にはフルタイムでない人も含まれているため

先にも述べましたが、ドイツの失業率が低い背景にはワークシェアリングをするケースが多い事に大きく関係しています。ワークシェアリングで働く場合はフルタイムではありませんが、OECDの統計ではフルタイムの人とそれ以外を分けずに計算されているのです。

理由 ② 日本で労働時間が長いのは、残業が多いため

最近の事情には疎いですが、日本では必要ではないのに残業をするケースが多いようです。上司より先に帰ることができないから会社に残る、といった話をよく聞きますが、この企業文化のために労働時間が多くなっていると思われます。

決められた時間内に結果を出すことが求められるドイツ

もちろん例外も多くあるとは思いますが、日本には残業しなくてはならないという暗黙のルールがある企業が少なからずあるようです。一方でドイツでは残業はその分コストがかかることになることもあり、勤務時間内に仕事を終わらせるのが原則です。それでも終わらない場合は残業することになります。

プレッシャーに耐えられず、うつ病になるケースも

ドイツでは、残業するのは自明のことではなく、基本的には定められた勤務時間内に仕事を終わらせなければなりません。実はドイツでは、一定の時間内に結果や成果を出すというプレッシャーに耐え切れず、うつ病になる人が多いのです。

数値だけで見ると以前に比べて、ドイツでうつ病にかかる人は増えてはいるのですが、この背景には「うつ病という病気の認知度が社会で高まったため、医者に気軽に行けるようになった」ことがあるのかもしれません。その意味では昨今、急にうつ病が増えたのではないとも考えられます。

休暇先で仕事をする人も

ドイツでは大半の人は有給休暇を使って長期の休暇を取るのですが、休暇中に仕事をするケースも少なくないようです。メールのチェック、電話の対応などをしているため、ゆっくりと休めないという問題も生じているようです。

ドイツ人の働き方についてみてきましたが、まとめると以下のようになります。

• 休暇大国ではあるものの、休暇中に仕事をする人が少なくない
労働時間数は少ないが、少ない時間内に成果を出すことが求められるため、プレッシャーが強くなり、病気になることもある
• 正社員とフリーランスでは待遇がまったく異なる。また正社員の中でも形態は様々なので、一概にドイツの仕事事情が良いとは必ずしも言えない

ドイツは決して休暇大国であるわけではありません。ごく一部の人が該当するもので、ドイツ社会全体を反映したものではないと言えます

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