ドイツの小学校:ソフト面編
入学後もシビア。一年生から留年があります
これまでの記事で「小学校入学前に専門医による適性検査がある」とお伝えしました。そこで就学にふさわしくないと判断されると、就学を一年間遅らせることになります。実際にドイツ語力が満たなかったり、検査に集中できなかったりした為に不合格になった子どもは少なからずいます。
このシビアな制度は無事に学校に入学できてからも続きます。学業がついていけていないと判断された子どもは留年させられ、もう一度同じ学年を続けることになるのです。
一学年に数人は留年する子どもがいる
留年する子どもはめったにいないのではなどと思っていたのですが、学校内で一学年に数人はいるようです。補講を受けても他の子ども達に追いつけない場合は、十分に理解できていないまま進級するのではなく、もう一度きちんと勉強したほうがその子どもにとって良いだろうとのことで同じ学年に留まることになるのです。
次男のクラスには年齢的には一つ上で留年した女の子がいるのですが、一年生のクラスでは出来がとても良いようです。また新しいお友達もできて楽しく過ごしているので、この子にとっては一年生を二回繰り返すことは結果的に良かったと言えるのかもしれません。
また次男のお友達で次男より遅く生まれたのですが、早めに入学して一年生になった女の子がいます。ただ生まれたのが遅いためか授業についていくのか困難なようで、先生からは「ドイツ語を理解していない」と言われているそうです。そのためこの子の親は一年生を繰り返す事を希望しています。
もう30年以上前の話になりますが、主人の友達は入学した直後に「習熟度に満たしていない」との判断を受け、幼稚園に戻されたそうです。幼いながらにとても傷ついたそうですが、こんな過酷な判断をする先生がいることにびっくりしました。
留年がある一方で、飛び級制度もある
児童の学力に応じて留年があるのですが、一方で飛び級制度もあります。児童の学力が極めて高いと判断された場合は次の学年に進むことになります。
もっともドイツ語は普通だが算数だけ抜群にできるといった子どももいるため、その場合はクラスの中でその子だけ2年生の勉強をやっていたりするそうです。ただしこの辺りは先生の力量次第だそうで、先生が子どもの才能に気付けず能力を持て余して授業を過ごしている児童も少なからずいるそうです。
次男のクラスには一緒に入学して飛び級して二年生になった子がいますが、その子は生まれたのが早く、二年生になってもほぼ違和感なく過ごしているようです。このくらいの年齢だと誕生月によって子どもの発達具合がかなり違ってくると思わされます。
ギフテッドクラスもある
ギフテッドとはIQが極めて高い子どものことですが、ドイツには飛び級制度以外にギフテッドクラスを用意している学校も多数あります。ただ全くの別クラスなのではなく、週に1度くらいギフテッドの子ども達を集めた特別授業を行うそうです。
私の子ども達が通う小学校もギフテッド対応をしているとHPには書いてあるのですが、実際にそのようなクラスがあるとは聞いたことがありません。今はギフテッドの子どもは特にいないからだと思っていますが、あるいは飛び級制度で対応していることも考えられます。
ギフテッドのための学校もある
聞くところによると、ベルリンの隣町のポツダムにはギフテッドの児童だけを集めた特別学校もあるそうです。子どもがギフテッドなのでこの学校に通わせるため引っ越した家族がいると聞いたことがあります。IQの高い子だけが集まった学校とは、一体どんな学校なのでしょうか?
一方でメディアでは「ギフテッドの子ども達の才能を生かせる政策が十分になされていない」とも報じられていますので、才能に気付かれていない子どももたくさんいるのかもしれません。
基礎学力が高い日本、詰め込み教育を厭うドイツ
OECDが実施した国別の学力調査で興味深いデータがあります。
数年前のデータですが、「子どもの学力と親の収入・学歴の相関関係」を調査したデータで「相関関係が最も高いのはドイツ」という結果が出たのです。また相関関係が最も低いのが日本でした。(もっともこれは今から数年前のデータで最新のOECDの調査ではドイツはランキング最下位を抜け出したようではあります)
つまりドイツでは、親の収入が多く学歴が高ければ子どもの学力が高い傾向が強く、日本ではその傾向が弱いということになります。別の言い方をすると日本では子どもの学力は環境に関係ないとも言えます。
漢字を書けるのはドイツ人にとっては驚異でしかない
経験値からこのデータは正しいと思います。日本の学校では小学校低学年から宿題が出され、それをきちんとやる習慣が社会に根付いています。漢字や計算を何度も繰り返すことは大変ではありますが、これを乗り越えることで基礎学力がつけられるのでしょう。
簡単な計算力に関して言えば数をこなすことで実力がつきますし、漢字は何度も読み書きをすることで定着します。日本の教育でこれらをきちんと身に着けることができることは価値の高いものです。
日本の子ども達が漢字を使った文章をすらすらと書くことは、日本では当たり前のことですが、それをドイツ人に伝えるととても驚かれます。ヨーロッパの言語はアルファベットしか使わないのに、日本語はひらがな、カタカナに加えて漢字まであるのです。日本語の習得がいかに大変なのか、文字の多さだけをとっても一目瞭然です。
詰め込み教育を厭うドイツ
一方のドイツですが、勉強の話になると大半の親は「詰め込み教育は良くない」という言い方をします。「無理矢理勉強させるのは子どもにとって良くないし、そもそも子どもはそれを望んでいない」とか「無理に難しい勉強をさせて後で大変な思いをすると子どもがかわいそう」と言った声が聞こえてきます。
つまり子どもには元々の実力があって、それ以上の事をやらせるのは不適切と考えているのです。日本人の私にとっては子ども本位で勉強させていたら伸びないと思うのですが、彼らはそれで良いと考えているようです。
この考え方を突き詰めていくと「私の子どもだから自分以上にオーバーキャパなことはやらせるべきではない」という事になってしまいますし、実際にそうなっているケースが多いです。
移民系の家庭はスパルタ教育が多い
最もこのように考えているのは両親ともドイツ人の家庭が圧倒的に多いです。
いろんな国籍の知り合いがいますが、お父さんかお母さんのどちらか、あるいは両方がロシア人のご家庭はほぼ100%スパルタ教育方式です。実際に本国ロシアでの学校教育はとても厳しいのだそうです。また日本人に限らず、親のどちらかあるいは両親がアジア人の家庭もスパルタで優秀な子どもが多いです。
だからといって優秀な子供が非ドイツ人の子どもであるというわけではありません。ドイツ人のご家庭で家で勉強しているとは到底思えないような子ども達の中には、トップクラスの優秀な子どもたちがたくさんいるのです。いわゆる、元々の地頭が良い子どもなのだろうと思わされます。
どちらの勉強方式が理想的?
ドイツ人方式と非ドイツ人方式、どちらの勉強の仕方が最終的には勝つのでしょうか?(もっとも日本人でドイツ人方式で勉強している家庭など、例外は色々あります)
あくまでも私の意見ではありますが、これまで色々な人を見ているとドイツ人方式の方が勝つように思えます。理由は「嫌がりながら勉強をする事をあまりやっていないから」です。この方式だと以下のような相乗効果があると思います。
1. 「嫌がりながら勉強をしていない」
2. 「勉強をするべき時はすぐにやるので効率よく早く終わる」
3. 「遊びや他のことに費やす時間も取れるし、睡眠時間もたっぷり取れる」
4. 「中等教育が始まった時にも勉強に対するエネルギーをきちんと持ち合わせている」
5. 「アビトゥーア(高校の卒業試験でこの成績によって大学への入学が決まる)まで自立して一人で勉強をするようになる」
というパターンが多いと思います。
このようなパターンで勉強をする子ども達には共通点があります。
それは「勉強の面白さに気付いている子どもが多い」という事です。
我が家に遊びに来た時にちょっと話していると、大人がびっくりするくらいの知見がある子どもがいます。恐らくご両親と家でそのような話題が日常会話として繰り広げられているのでしょう。学校で勉強する事が面白いと思えるのならば、勉強していても強みとなりますね。
一方で、小さい頃から親に強制的に勉強させられていた子ども達は、小学校の高学年くらいになると勉強への意欲を失ってしまうパターンが少なからずあるようです。
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