アムステルフェーンのバスステーションやショッピングモールから徒歩すぐの場所に、ちょっと変わったモダン・アートの美術館があります。その名も「コブラ・ミュージアム(Cobra Museum)」。地元に住んでいる人にもあまり存在を知られていませんが、実は第二次世界大戦後のオランダやベルギー、デンマークのアーティストによる美術史の上で重要な芸術運動「コブラ(Cobra)」による作品が保存されている珍しいアートスポットなんです。
戦後オランダとその周辺国のモダン・アートがわかる場所
アムステルフェーンの図書館や様々なお店が集められた大規模なショッピングセンター「スタッズハート・アムステルフェーン(Stadshart Amstelveen、公式ウェブサイト:http://stadshartamstelveen.nl/)」のすぐ近くに、コブラ・ミュージアムはひっそりと建っています。バスステーションから来る場合は、ショッピングセンターの駐車場を右手に見ながら北の方角に向かうと、すぐにこちらの赤レンガの建物が視界に入ってきます。
この美術館は、普通の市立や私立のミュージアムとは一味違います。というのも、「Cobra」という第二次世界大戦後のヨーロッパにおける芸術運動に参加したアーティストの作品を中心に展示・収集している美術館だからなんです。オランダのモダン・アートにおいて、重要な位置を占める「コブラ」の芸術運動。それに参加したオランダやベルギーなどのアーティストの作品を通して、モダン・アートの歴史の一幕に触れられるのが、このコブラ・ミュージアムです。
まず、入口でチケットを購入しましょう。大人は12ユーロ、6歳から18歳までは7.50ユーロ、5歳以下とミュージアムカード所持者は無料です。
コブラの活動とその世界の広がりが感じられる場所
「Cobra」という名前は、コペンハーゲンのCO、ブリュッセルのBR、アムステルダムのAを取って付けられました。デンマーク、ベルギー、アムステルダムの前衛的な芸術家たちによって1948年に結成され、1951年までの短期間で、アヴァンギャルド芸術として戦後間もないヨーロッパ社会に大きなインパクトを与えました。そのコブラのアーティストの作品と思想を伝えるのが、この美術館のミッションです。
コブラに所属する各国のアーティストたちは、プリミティブアートや子どもの手による自由なアート、精神障害のある人によるアート(いわゆるアウトサイダー・アート)に閃きを得て、数多くの絵画や彫刻、出版物を手がけました。彼らの活動抜きにはオランダのモダン・アートの歴史は語れないというほど、現在に至るまで多くのアーティストに影響を与えてきた存在です。
彼らの作品の特徴は、基本的には強い色使いと筆遣いで、のびのびとしていて、ときにとてもパワフルな表現方法です。現代の私たちはあまり驚かないかもしれませんが、当時の民衆や権力者には、抽象的で、画面から飛び出してきそうな迫力のあるアヴァンギャルドな絵画は驚きや奇異の目で見られていたのだろうなぁと想像できます。
実験的な表現が新しいアートを生み出した時代
ミュージアム一階には、コレクション作品が展示されていました。美術館の建物の東側は全面ガラス張りになっていて、運河の水面が見えます。そこに、彫刻作品がさりげなくポツンとあるのが見えるでしょうか。ブロンズでできた動物の姿をした天使のよう作品です。運河に舞い降りて遊んでいるかのような姿がかわいいですね。コブラの作家たちがよく使う子どもっぽいキャラクターのようなモチーフは、どこかフレンドリーな雰囲気があって親しみやすいですよね。
コブラのアーティストたちは子どもの絵やプリミティブアート、そして画家パウル・クレーやジョアン・ミロに大きく影響を受けていました。そう思って見ると、色彩感や形の自由さなど、クレーの作品と共通することがたくさん見つかります。戦前や戦後しばらく経ってからのアーティストと比べたり、違った視点から鑑賞してみたりしても面白いですね。
1951年に解散するまでの短い間に、コブラのアーティストたちは濃密な活動を行いました。先の時代にもてはやされていたシュルレアリスムとは違うアートが必要だと信じて、新聞などの批判にもめげず、活動を広げていった前衛的なアーティストの思いが伝わってくるような、今見ても新鮮で刺激的な作品がいくつも展示されていました。コブラに所属するアーティストの作品は強いタッチと形、色彩が特徴的だと言われていますが、それだけにとどまらない深い表現力に触れられる多面的な展示でした。
後世のアーティストたちに与えた影響
戦争の恐ろしさを知る世代であるコブラのアーティストはナショナリズムを嫌い、国境を越えてアートでつながっていきました。デンマークに始まり、ベルギー、オランダを中心に、イギリス、フランス、ドイツにもメンバーとなるアーティストが出てきたコブラの活動は、国境を越えたコラボレーションやインスピレーションを与え合っていたそうです。アメリカ生まれでオランダ国籍を持っていた日系アーティスト、シンキチ・タジリもコブラの流れに加わって作品を制作しました。
美術館2階で開催されていた特別展「エンリコ・バイ(Enrico Baj : Play as Protest)」では、コブラに影響を受けたイタリアのネオ・アヴァンギャルドのアーティスト、エンリコ・バイの作品展が開かれていました。反軍国主義で反ナショナリズム、核などの現代世界を脅かす存在に異を唱えるバイの作品は、1950年代から70年代にかけて作られたものにもかかわらず、今なお現代的なテーマとして感じられるものばかりでした。
国を超えて、アートで団結したコブラの活動やその思想は、今なお人々に影響を与えうるものだと言われています。それぞれの違いを認め合い、多様性を大切にして、国際的なつながりを強めていくことがますます重要になってきている今の時代にとって、コブラのアートが発信するメッセージは重要な意味を持ちうるのではないでしょうか。有名な作品はないけれど、モダンと現代のアートをつなぎ、前に進む力を与えてくれるような素敵なミュージアムでした。
(インフォメーション)
名称:コブラ・ミュージアム(Cobra Museum)
住所:Sandbergplein 1, 1181ZX, Amstelveen, The Netherlands
開館時間:11:00~17:00 火曜~日曜
公式ウェブサイト:http://www.cobra-museum.nl/en/
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