運河が流れる美しい街並みを持つアムステルダム。間口の狭い特徴的な建築スタイルを持つ家が多く、散策しながら見て回るだけでも興味深いものです。外から見ているだけでも、家のインテリアや構造がどうなっているのかは、とても気になりますよね。特に美しいお屋敷の窓を覗くと、整った部屋の向こうに庭園が見えたり、美しいインテリアが垣間見えたり。
今回は、そのようなアムステルダム中心街に建つ歴史ある邸宅の中を実際に中に入って見学できる美術館をご紹介します。その名もファン・ローン美術館。17世紀のオランダ黄金時代に商業的な大成功を収めたファン・ローン一家の私邸だった建物が、美術館として整備され、公開されているのがこのミュージアムです。運河沿いの優雅な雰囲気の建物に足を踏み入れて、見学してみました。
大商人の暮らしぶりが分かる美術館
1672年に建てられたこの美術館は、もともとレンブラントの弟子だったフェルディナンド・ボルが住んでいたそうです。その後、18世紀中ごろに大幅な改修を経て、1884年に貿易で大成功を収めた大商人のファン・ローン一家が結婚祝いとして邸宅を購入。ファン・ローン一家は、アムステルダムが商業で大いに栄えた黄金時代の17世紀始めに、世界史の上でも有名なオランダ東インド会社の設立者の一人だったウィレム・ファン・ローンさん以降、アムステルダムでも名を馳せた家系です。
1973年に美術館としてオープンしますが、現在もファン・ローン一家が上階で生活しているそうです。アムステルダムの街中ではとりわけ広く、庭園も内装も美しい邸宅です。
アムステルダム中央駅からは、トラム1・2・5番いずれかに乗って停留所「Koningsplein」で下車して徒歩8分、もしくはトラム4番で停留所「Keizersgracht」で降りて、「Keizersgracht」の通り沿いに歩いていくと着きます。運河を挟む向かいには、写真美術館「Foam」が建っているので、時間があれば合わせて鑑賞してもよさそうですね。
シックな印象のインテリアを鑑賞
扉を押して建物に入ると、玄関は白が基調で、大理石の床が美しく、間口は広くなくても豪華な印象です。
右手に小さなチケットカウンターがあり、若い女性スタッフが笑顔で迎えてくれました。チケットは大人が9ユーロ、6歳から18歳までの子どもが5ユーロ、6歳未満は無料です。
玄関ホールには、見事な花束が飾られていました。インテリアは豪華にあつらえられていますが、過度なきらびやかさはなく、どこか上品でシックな印象。お金持ちの大商人の家に招待されたお客さんのような気分になりながら、公開されている部屋を巡っていきます。
エレガントな雰囲気に満ち溢れるお屋敷のようなファン・ローン美術館。母屋には3フロアに分けて計10部屋が一般公開されており、加えて屋外の広い庭園と馬車置き場があります。
一部屋ずつゆっくり鑑賞してまわりました。部屋ごとに色調が違って、雰囲気がずいぶん変わりますが、品のよさと優雅なインテリアデザインは共通しています。調度品にもご注目を。アンティーク好きな方にとってはたまらないような、上質な掛け時計や椅子などがさりげなく置かれています。ファン・ローン一家のメンバーが描かれた肖像画もたくさん壁に掛けられていて、オランダ黄金時代に芸術家のパトロンになっていたのは教会や貴族よりも裕福な商人だったことが伝わってきます。
また、1階の階段下付近には、ファン・ローン一家をこの地に訪問した日本の皇太子の写真と贈り物も展示されていました。展示を見る際には、ぜひ探してみてくださいね。
こちらの部屋は2階にあり、庭園を望める最高のロケーションにありました。一家のお嬢さんのための部屋としてもつかわれていたそうです。内装は変えられてきたのだとは思いますが、このような美しい子ども部屋が存在するなんてびっくりです。子どもたちの肖像画が壁にかかっていました。壁紙もオリジナリティがあっておしゃれです。
庭園を背に建つ邸宅
こちらのダイニングルームでは、家紋の入ったカトラリーが綺麗にテーブルセッティングされていました。最大で24人までが同席できるという長いダイニングテーブルは、今でもファン・ローン一家によって、特別な機会に実際に使用されているのだとか。窓の外を見ると、運河が臨めます。オランダ・アムステルダムの運河がある地区ならではの眺めですね。
運河側から見て、建物の裏側に通り抜けると、美しく整えられた庭園が広がっていました。もともと、アムステルダムの運河地区の住宅は、純粋に家主が楽しむための庭園を背負うように設計されたのだそうです。冬の間でも常緑樹が茂り、クラシックな雰囲気を漂わせていて、とても美しい庭園です。春夏には、バラなどの花が咲いて彩を添え、ますます美しいだろうことが想像できます。
庭園の向こうには、もうひとつ重要な建物があります。馬車置き場(The Coach House)と呼ばれる収納庫の設備を持つ建造物です。この地区のファン・ローン美術館と同じような大きな邸宅には、庭園の後ろにこの馬車置き場が付随しているのが普通だったそうです。現在は、オランダ黄金時代にもてはやされていた立派な馬車そのものや、御者たちの衣装や馬具や馬小屋の模型、歴史を証明する写真や映像がずらりと展示されています。
また、母屋では特別な展覧会として、馬車の進化とその構造について、設計図や絵画を交えて学べる展示が行われていました。自転車もバイクも車も無かった時代に、馬車に乗って優雅にアムステルダムの街を行く大商人たちを始めとする裕福な市民の姿が思い浮かびます。でこぼこしていて曲がりくねった道ばかりで、道路もあまり整備されていなかったようで、よく運河に落っこちてしまう事故があったという説明もありましたが……。母屋の地下には、メイドたちが一家のために昼夜料理を作っていたキッチンもあり、当時の食生活がわかります。
ファン・ローン美術館を訪れれば、運河沿いの伝統ある一家の優雅な私邸にお邪魔するかのような体験ができます。オランダではしばしば天気がよくない日が続きますが、この美術館は雨の日でもより雰囲気があって素敵ですし、庭園を除けば屋内の展示ばかりなので見学しやすいのでおすすめです。
インフォメーション
名称:ファン・ローン美術館(Museum van Loon)
住所:Keizersgracht 672,1017ET,Amsterdam
開館時間:毎日10:00~17:00
公式ウェブサイト:http://www.museumvanloon.nl
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