オルゴールといえば、可憐な音楽を奏でる掌に乗るくらい小さな箱を思い浮かべるのではないでしょうか。あまり広く知られていませんが、実はオルゴールにはさまざまな種類の音を出す仕掛けが使われていて、現在私たちが知っている形状にたどり着くまでには、数々の試行錯誤と技術革新がなされてきました。そんなオルゴールの歴史が実物を通して楽しめるのが、オランダ中部にある街・ユトレヒトのオルゴール博物館(Museum Speelklok)です。
音楽に囲まれる賑やかなミュージアム
オルゴール博物館という名前には、ちょっとメルヘンで地味な響きがあるかもしれません。でも、実際に訪れてみると、展示室は賑やかで色彩に溢れていて、子どもだけではなく大人でも夢中になってしまうような、好奇心を刺激する多彩で楽しい博物館なんです。機械好き、楽器好きの方にもおすすめできるような、オルゴールの中の仕組みがわかる展示も充実しています。
このオルゴール博物館は、歴史ある中世の街並みを持つユトレヒトの街の中心部の商店街の途中に建っています。街のモニュメントであるドムタワーからも歩いて数分の場所です。古くは教区教会として使われていた建物をステンドグラスやパイプオルガンなどをそのまま残し、博物館として改装の上、オープンしました。
建物に入ってすぐの場所には、ミュージアムカフェがあります。すでにオルガンなどの楽器や演奏したりダンスする人たちの姿が描かれた絵が目に入ってきて、心が躍ります。
その奥にはチケットカウンターとミュージアムショップがあります。入場チケットは大人12ユーロ、4歳から12歳までの子どもは6.50ユーロです。ちなみに、ドムタワーに登るためのチケットも合わせて安く購入できるコンビネーションチケットも販売されています。
チケットカウンターで、係員の方が「どちらの国からいらっしゃいましたか」と聞くので、日本と答えると……なんと、博物館の日本語版パンフレットをもらえました! 小冊子のようになっていて、注目すべき展示作品の解説と写真が載っている優れものです。
パンフレットと一緒に、鍵の絵のついたカードももらいました。このカードは、展示されている自動演奏楽器が奏でる音楽の録音を聞くために使えるのだそうです。では早速、展示室に入ってみましょう。
皆のための音楽を奏でる楽器
館内にはオランダ国内のみならず、ヨーロッパを中心に世界各地で制作されたいろいろな型の「自動演奏楽器」が集められています。コレクションの展示を最初から通して見ていくと、それぞれに異なる特徴を持つ作品を鑑賞しながら、現在私たちが知るオルゴールになるまでの歴史がよくわかります。
昔は、生身の音楽家を雇うことができる裕福な人々だけが音楽を楽しむことができるという時代がありました。音楽を愛する気持ちには貧富の差は関係がありませんよね。だからこそ、自動演奏する楽器や機械があれば、廉価で時間を問わずいつでも、たくさんの人が音楽を楽しめます。合わせて録音技術も発展したことによって、音楽というものが裕福な人だけではなく、一般の人にとっても身近なものに変化していったという時代背景があります。電気もない時代に、多くの人が知恵をしぼって高度な機械を作りあげていったことを思うと、感慨深いですね。
展示品の音を実際に聞くチャンスもあり
精巧につくられた機械仕掛けの自動演奏楽器を眺めていると、思わず触ってみたり動かしてみたりしたくなりますが、館内の作品のほとんどには触れることができません。でも、ご安心ください。一定の時間おきに無料のガイドツアーが行われていて、そのツアーの最中には、スタッフの方が実際に機械を動かして音楽を聴かせてくれるんです。
また、作品の側に録音が用意されていることも多々あります。チケットカウンターでもらった鍵カードを差し込むと、ヘッドフォンを通して展示作品が奏でる音楽をいつでも再生して聴くことができます。
最初の展示室に入ってすぐ右手に、ツアー参加希望者の集合場所があります。ガイドツアーは約45分間で、オランダ語と英語の両方で説明が受けられます。ガイドしてくれたお兄さんはそれぞれの展示品について、まずオランダ語で説明したあと、英語で同じ内容を説明してくれました。
機械の細部に宿る美しさ
ガイドツアーで紹介される楽器・オルゴールは回によって異なるそうですが、私が参加したツアーでは、博物館スタッフのお兄さんがまず最初に教会のカリヨンを鳴らしてみせてくれました。ヨーロッパの街を訪れると印象に残る教会の鐘の音が、館内に響き渡ります。素朴で、どこか懐かしい可憐な音でした。
次には、時計職人たちが制作した鐘や複雑な音楽を自動演奏する高級置き時計、そして繊細で美しい音色のする時計や、鳥の声を再現した置物、絵の中の人が歩いたり手を動かして農作業をしたりする人形とオルゴールを兼ねたオートマタという種類の機械が紹介されました。オートマタは音楽と動きが見事に連動していて、さぞ当時の人々の目を驚かせただろうと想像できます。じっと見つめていたくなる美しい機械がたくさん並んでいました。
派手な音楽を鳴らすストリートオルガン
オランダの街中でしばしば見かけるオランダ名物というべきストリートオルガンも数多く展示されていました。当時は流行のダンス音楽を奏でるためにパーティなどのイベントの機会にレンタルされていたというオルガンは、現在のディスク・ジョッキーのような役割を果たしていたのだそうです。爆音に最初はびっくりしますが、陽気な音楽と華やかな外見に心惹かれる方も多いのではないでしょうか。ちなみに、手回しで動くストリートオルガンもあって、ガイドツアー中には希望者はストリートオルガンを手回しする体験ができました。結構力がいるうえ、一定のスピードで回さないと音楽のテンポが変わってしまうので、なかなか難しそうでした。
いろいろな仕組みの楽器が勢揃い
ガイドツアーのあと、2階の展示を見てまわりました。建物の2階部分は、教会の壁沿いをぐるりと回れるようなプロムナードになっています。そこからはパイプオルガンの演奏者用の小部屋がのぞけたり、カリヨンを間近で観察したりすることができます。
また、小型化して仕組みを進化させていったオルゴールが並んでいて、その中には日本製のオルゴールもありました!
その他、本格的な自動演奏ピアノやカリヨンを間近で鑑賞できました。15世紀につくられた教会の塔のための鐘がこのカリヨンです。ユトレヒトの街のシンボル的存在で一際目立つ美しい塔「ドムタワー」も、オランダで一番チューニングの整った50の鐘(カリヨン)を兼ね備えているのだそうです。塔が建てられた当時は、それぞれの街が自分たちの街の塔のカリヨンの音色の美しさを競っていたことなどもビデオを通して学べます。
パンチカードを作るワークショップ
2階の一角には、ワークショップのためのスペースも用意されていました。用意された材料を使って厚紙に穴を開けた「パンチカード」と呼ばれる紙を作り、それを小型のオルゴールに巻き込んでいくと……! どこかで耳にしたことのあるメロディが流れてきます。穴をあけた厚紙が楽譜の代わりになって、オルゴール内部の鍵盤のように並んでいる突起を押さえ、出したい音だけが鳴るという仕組みになっています。シンプルながら、よく考えられた構造ですよね。オルゴールが奏でる可憐な音楽を聞いていると、どこか懐かしくてほっとした気持ちになります。
変わった自動演奏楽器やその仕組みがわかる
館内にはまだまだたくさんの展示があります。奇想天外に見えるヴァイオリンとピアノを自動演奏する機械「ヴィオリーナ(Violina)」や、ショー形式で映像と音楽、ライトアップされた展示作品が並ぶステージもあります。
それぞれの機械の中身がどうなっているのか詳しく説明されている展示もありました。ちなみに、毎月第一水曜日には、所蔵作品の修理・修復を行っている部屋を特別に見学できるツアーもあるとのことなので、機械の中身がどうなっているのか興味がある方は、問い合わせして予約の上訪れてみると面白いと思います。
心が弾むような音楽に溢れているオルゴール博物館は、大人にも子どもにもおすすめできる楽しいミュージアムでした。ぜひ訪れてみてくださいね!
(インフォメーション)
名称:オルゴール博物館(Museum Speelklok)
住所: Steenweg 6, 3511 JP, Utrecht, The Netherlands
開館時間:10:00~17:00 火曜~日曜
公式ウェブサイト: http://www.museumspeelklok.nl/lang/en
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