オランダの政治的な首都であるデン・ハーグの町はずれに、知る人ぞ知る自動車のためのミュージアムがあります。その規模と個人コレクションの内容で自動車好きには有名で、ゆうに3時間はたっぷり楽しめる、それがローマン・ミュージアム(Louwman museum)です。
広大な敷地と膨大な自動車コレクション
自動車を展示するだけあって、ミュージアムの館内はとても広々としており、ぜいたくに空間が使われています。
チケットは大人が14ユーロ、12歳以下の子どもは5ユーロで、オランダのミュージアムカードがあれば入場無料です。15名以上のグループ割引もあります。
ミュージアムの建物は、1934年に博物館として特別に誂えられたものです。入館してすぐに目に入るのは、天井が見上げるほど高い、大きな聖堂の回廊のようなエントランスホールです。壁沿いには、ポルシェなどのクラシックカーがずらりと美しく並べられています。車の魅力が一番輝いて見えるように工夫されているようで、照明もばっちりです。車好きならずとも、思わず見入ってしまうような最初の展示室でした。
エントランスホールから始まる歴史的な車の展示
その他にも、現在世界中で残っている最古のバスだという、2階建てのロンドンの公共バス「ダブだル・デッカー」から、オランダでかつて生産されていた「後ろ向きにも走れる」という変わったコンセプトの車「ダフ(DAF)」など、ちょっと変わったかっこいい車がたくさん並んでいて、さっそく目を奪われてしまいました。
さらに、日本のスポーツカーの始まりといえるトヨタの2000GTまで見つけることができました! 1968年製ですが、本当にきれいに保存されています。エンジンやデザインなどの歴史も、車の脇に建っているキャプションボードにしっかりと書かれているので、ちょっと読むだけでもとても勉強になります。ミュージアムの学芸員さんたちの車への愛情が伝わってきます。
筆者が訪問した際には、これらの車が並んでいるホールで、ある種類の車の愛好家が集まるグループのパーティが行われていて、ホール中央にスタンディングバーのような飲食スペースが設けられていました。その特別設置があっても、なお広々としたスペースで鑑賞の邪魔にはならないことを考えると、本当に広くて、見やすさを考慮して設計された建物だと思いました。
建築デザインはMichael Gravesさんというアメリカ合衆国の建築家によるものだそうです。モダンなデザインの中にも、天井や柱に木材があしらわれていて、清潔で高級感のある雰囲気があって素敵です。さらに、ハーグの歴史的な建造物などの周囲との調和を考えて、あえてクラシックな外観に造られたのだそうです。考え抜かれていますよね。
クラシックカーを中心としたコレクション
ミュージアム館内には、資産家のローマン(Louwman)さん一家が2世代かけて築き上げたクラシックカーコレクションを中心に、価値の高いさまざまな自動車はもちろん、車にまつわるアート作品や工芸品に至るまで、幅広い展示品が広い館内に整然と並んでいます。世界的に見ても指折りの歴史のあるコレクションで、ミュージアムとして開館したのは1934年にさかのぼります。
もともと、ローマンさんは、アメリカの自動車であるダッジとクライスラーを輸入する会社を経営していたのだそうです。そういったわけで、アメリカのクラシックカーの所蔵品がとても豊富です。所蔵品の車は、合わせて250台以上あるとのことです。
自動車から時代が見える
いわば自動車の祖先である人力車や馬車などの歴史的なコレクションも充実しています。自動車の歴史のうえで、「どのような動力を使うか」という試行錯誤が行われていたことが、実物の例を通してよくわかるように、展示品は時系列で並べられていました。
人力車、馬車に始まって、蒸気機関車のような姿になり、やがて現在私たちが自動車と呼んでいるものに形が近づいていく様子を見ていると、感動すら覚えます。一体どれだけの人々の努力と研究の上に、自動車が誕生したのでしょうか……たくさんの人のただならぬ情熱を感じます。
動力スタイルの違いはもちろん、デザインの違いも面白いところです。お金持ちだけが乗ることができた高級感あふれる、いわば権力を示すための乗り物だったところが、構造が改善されて馬力がアップし、速さなどの機能が向上し、利便性の高さが注目されていく過程も興味深いところです。自動車がまだ少なかった時代には、街に繰り出せば注目を浴びていたのでしょう。子どもたちも自動車に魅了されて、それぞれの自動車のミニチュアといったおもちゃもたくさん作られていたようで、それも合わせて展示されていました。かわいらしいですよね。
エンジンが発明されてから、展示されている自動車を通して、幅広いスタイル、ニーズにあったものが作り出されていく過程が見えます。「自動車は文化を映す鏡」だというように、それぞれの自動車を生み出した時代背景に迫るのも、このミュージアムを楽しく鑑賞する方法の一つだと思いました。
レーシングカーや高級車を間近で鑑賞できる!
自動車の歴史が分かるコレクションの他にも、映画で使われた車や有名人の車も所蔵、そして展示されています。エルヴィス・プレスリーが特注したキャデラック(CADELAC FLEETWOOD、1976年製)や、イタリアマフィア映画「ゴッドファーザー」の撮影に使われたリンカーン(LINCOLN CONTINENTAL COUPE)などもコレクションされています。
また、レーシングカーのための特別室もあり、近年実際にレースで使われたトヨタのレーシングカーも展示されていました。こういった種類の車を間近でじっくり見られる機会はなかなかありません。充実した展示でした。
宇宙船のような変わった形の車やバイク、そして普段はなかなかお目にかかれないような高級車も鑑賞することができて、車好きではなくても次第に車の魅力に気づかされるミュージアムだと思いました。目の保養になります。
マニアにも嬉しいディティールの説明つき
車マニアの方にとっては、自動車メーカーごとの展示や「初期型のハーレーダビッドソン」などの珍しい歴史的な車や、エンジンの構造の違いなども詳細な説明とともに展示されているので、そういったポイントを通して、ディープに楽しむこともできると思います。実際に、車好きな来館者にとっては、何時間滞在していても飽きない場所のようでした。
トヨタや日産を始めとする日本車のコレクションも豊富で、あちこちに日本車を見つけることができました。海外で日本車が高く評価されていることが伝わってきて、誇らしい気持ちになります。また、日本人なのに日本の車についてよく知らなかった筆者にとっては、改めて勉強する機会になりました。
ミュージアムの展示品は自動車なので、当然のことながら広大な展示室が欠かせません。しかも、館内には多数の展示室があり、一通り鑑賞するだけでも3時間はかかります。
館内を快適に歩き回って、展示を100パーセント楽しむためには、歩きやすい靴で来館することをおすすめします。
世界的に見ても珍しい車のコレクションが揃ったミュージアムです。ぜひ半日ほどかけて、たっぷりと楽しんでください!
インフォメーション
名称:Louwman Museum
住所:Leidsestraatweg 57, 2594BB, Den Haag
開館時間:火曜から日曜まで10:00~17:00、月曜休
公式ウェブサイト:www.louwmanmuseum.nl
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