ユトレヒトの南側で約2世紀にわたり、街の歴史をアートを通して多角的に伝え続けている美術館があります。それがこのユトレヒト・セントラル・ミュージアムです。「歴史ある美術館」と聞くとちょっと固い印象ですが、実は考古学的価値のあるコレクションから最新の現代アートやディック・ブルーナのアトリエまで、幅広いジャンルのアートを一度に楽しめる素敵なミュージアムなんです。
閑静な地区に建つアートミュージアム
ユトレヒトの街の中心部から10分ほど南に歩いていくと、にぎやかで活気あふれる雰囲気とはまた一味違う、静かで落ち着いた街の一面が顔を出します。その一角に、ユトレヒト・セントラル・ミュージアムが建っています。シンプルな「○」という白いサインが出ているのが目印です。向かいはミッフィー・ミュージアムで、こちらにはミッフィーサインが出ています。
もともとこの建物は、中世に修道院として建てられた施設が戦時中には軍隊の宿舎として使われていました。1838年には美術館として公式オープン。現在、オランダで一番歴史の長い市立のミュージアムです。
11の展示室に広がる多彩なアート・ワールド
チケットは18歳以上の大人が12.50ユーロ、13~17歳は5ユーロです。向かいのミッフィー・ミュージアムのチケットも合わせて購入することができます。
展示室は、合わせて計11部屋もあります。全ての部屋をキャプションを読みながら回っていくと、たっぷり2時間は楽しめる、見ごたえのあるミュージアムです。施設自体が広いので、鑑賞中に1階のカフェで休憩を挟むとちょうどいいかもしれません。
なお、スマートフォンと館内のWifiを使えば音声ガイドツアーが楽しめます。
この美術館では、11の展示室がフル活用され、いくつものテーマの展覧会が同時に開かれています。筆者が訪れた際には、「Rietveld’s Masterpiece: Long live De Stijl!」という特別展が一番広いスペースを占めていました。
内容は、オランダの「De Stijl」という一派と、その芸術運動の重要な部分を担ったユトレヒトにゆかりのあるデザイナーで建築家のヘリット・リートフェルト(Gerrit Rietveld)に焦点を当てたものでした。
「デ・ステイル(De Stijl)」は1917年からオランダで刊行されていたデザイン雑誌の名前で、のちにデザイナーや建築家を中心とするグループやその運動も同じ名前で呼ばれるようになりました。抽象絵画のピエト・モンドリアンも一時的に所属していたそうです。
その中でも重要な役割を果たしたのが、ヘリット・リートフェルト。彼の作品の中から、有名な「赤と青の椅子」や、1924年に個人住宅としてデザインされ、当時のデザイン界に衝撃を与えた建築「Rietveld Schröder House」についても詳しい展示がありました。
斬新なスタイルで人々の目を驚かせたこの住宅は、ユトレヒトの郊外に今でも保存されていて、予約すれば内部を見学することもできるそうです。チケットはこのユトレヒト・セントラル・ミュージアムと共通です。建築に興味がある方はぜひチェックしてみてくださいね。
遊びながらアート鑑賞
展示室の合間に、ヘリット・リートフェルトがデザインした代表作品である椅子のレプリカがさりげなく置かれていました。壁には、「記念写真を撮って、ぜひSNSで共有してください!」と書かれています。このユトレヒト・セントラル・ミュージアムには、あちこちにこんな親しみやすいキャプションがあり、そこからは「もっと自由に肩の力を抜いてアートを楽しんでほしい」というメッセージが伝わってきます。
工夫にあふれた体験型ミュージアム
アートの鑑賞方法は人それぞれで、基本的に自由。だからこそどう楽しめばいいのか分からない、という方も多いと思います。そんな状況を打開するためか、このユトレヒト・セントラル・ミュージアムのいくつかの展示室の一角にはいろいろな仕掛けが用意されていました。たとえば、展示室の隅のノートには、自分がどうアートを楽しんだか、どんな発見があったのかなど、誰でも自由に記入することができます。鑑賞の仕方や工夫、おすすめの作品などをたくさんの人と共有して楽しんでほしいという思いが伝わってきます。
ミュージアムの所蔵作品は約5万点あり、長い歴史を持つユトレヒトに関する作品が中心です。11世紀にまで遡るユトレヒトの歴史に触れる展示が、EXPO4、5、6室にある展示「The World of Utrecht」。一般的な美術館とは違って、あえて時系列順には並んでいません。「ジグザグの経路」でそれぞれを自由にアートとして鑑賞してほしい、というメッセージが壁に書かれていました。
ロックやポップスなどの音楽が流れる展示室があったり、肖像画に描かれている人々が身に着けている白い付け襟をが用意されていて実際につけてみることができたりと、どんなジャンルのアートも体験しながら楽しめるようになっていて、飽きることなく鑑賞できるはずです。
必見!ディック・ブルーナのアトリエ
ミッフィーの作者・ディック・ブルーナのアトリエ(Studio Dick Bruna)が、このミュージアムの最上階に保存されています。この展示室は、彼のアトリエと同じように屋根裏部屋につくられています。最初の部屋には映像が流れていました。愛用していたティーテーブルも置かれていて、アトリエに招待されたかのようにソファで和みながら鑑賞することができます。
他にも、ブルーナ自作のソファや世界中のファンから贈られた手作りのプレゼント、ミッフィーシリーズを始めとする各国語版の数多くの著作や友人たちから寄贈された本、中には和英辞典などがぎっしりと棚に並んでいました。エルサレム通りにあったアトリエの360度映像も見ることができます。
アトリエそのままの貴重な展示
展示の奥には、ブルーナが制作していた当初のままのアトリエが再現されています。ストーリーを書くときに使っていたタイプライターも、今でもすぐ作業に取り掛かれるような状態で、当時のままきれいに保存されています。折り紙や日本人形など日本とのつながりを感じさせるものがいくつも飾られていました。
アトリエの手前には、実際に使われていた灰色の大きなドロワーがあります。こちらの引き出しは自由に開けて過去の作品やポスター、切手、原画などを見ることができます。気づかず通り過ぎる方が多かったのですが、貴重なポスターや作品、日本で発売された「ふみの日」の切手などが収められていたので、ぜひチェックしてみてください。
新作コレクションの部屋
現代アート作家による制作中の作品のための部屋や、美術館によってつい最近購入された作品が鑑賞できる展示室もありました。オランダ人の現代美術アーティストの作品です。人間の女性の髪をフェルト状の布にして、それをドレスやコートに仕立てたものが展示されていて、かなりの迫力がありました。個人のストーリーや思いが編み込まれているように感じます。
大充実のミュージアムショップ
ミュージアムショップには、他ではあまり見かけないようなミッフィーグッズはもちろん、お土産にぴったりなアートグッズが取り揃えられていて必見です!
ショップの奧にある階段で2階に上がると、穴場というべきアートブックショップが広がっています。もともとチャペルだった空間を活かし、天井がとても高いダイナミックな空間には、本やパンフレットのコーナーの他に、「インフォメーション」と書かれたカウンターがありました。そこに座っていた女性は、「ユトレヒトのことなら何でも聞いてちょうだい!」ととってもフレンドリー。おすすめの観光地やアートスポットについて教えてもらうことができました。ちょっとした会話を通して地元の人の優しさに触れられて、嬉しい体験でした。
その他、中庭に面したオープンテラスのあるおしゃれなカフェレストランもあります。天気がよかったので、屋外で日光浴を楽しんでいる人が多くて、いかにも気持ちが良さそうです。
ユトレヒトの歴史を学びながらアートのいろいろな鑑賞方法が楽しめる常設展はもちろん、特別展も充実していて、
見どころたくさんのユトレヒト・セントラル・ミュージアム。ぜひ訪れてみてくださいね。
(インフォメーション)
名称:ユトレヒト・セントラル・ミュージアム(Centraal Museum)
住所:Agnietenstraat 1, 3512 XA, Utrecht, the Netherlands
開館時間:火曜~日曜 11:00~17:00、第一木曜日11:00~21:00
公式ウェブサイト:http://centraalmuseum.nl/en/
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