日本大使館のあるメイフェアは、ロンドンでも指折りの一等地
バッキンガム宮殿に隣接する広大なグリーンパークの道向かいは、日本大使館の他、最高級ホテルや企業の本社、高級商品を扱う老舗やレストランが並び、一般庶民には縁のない場所のように思えますが、ほんの少しだけ裏通りに入ると、なじみ深いビレッジスタイルのマーケットが潜んでいるのをご存知ですか?
この記事ではメイフェア地区の概要と魅力を写真付きで解説します。
世界でも指折りの高級エリア
日本大使館のあるメイフェアは、ピカデリース・トリート、オックスフォード・ストリート、リージェント・ストリートというロンドンの目抜き通りに囲まれ、イギリス王室所有のハイドパークとグリーンパークに隣接するロンドンの一等地
ロンドンはおろか、世界でも最も地価の高いエリアと言われています。
所用で日本領事館を訪れる日本人の方は多いと思いますが、用事が済んだら直ぐに、もっと庶民的で賑やかなウエストエンドに移動なさる事が多いのではないでしょうか。
メイフェアの裏道に入ってみると…
日本大使館の向かって右横にある脇道White Horse Streetです。
ビルの間の、一見何もない通りのように見えますが…
角を曲がっただけで、こんな風景が見えてきます。
ここはシェパート・マーケット(Shepherd Market)と呼ばれ、ビクトリア時代の建物やエドワード時代のパブの間を狭い通りと石畳の歩道が迷路のように縦横に走り、周辺の住人やオフィスで働く勤め人で賑わっています。
表通りの威厳のある無機質な雰囲気とは全く違う雑然とした世界が広がっているので、一瞬、テレポートしてしまったのかと思えるほど。
実はこのエリア、ジョージアン時代に「メイフェア」と呼ばれるマーケットが開かれていた場所で、今はお金持ちの代名詞ともなっているメイフェアという地名も、このマーケットが由来となっているのです。
貴族から庶民まで大賑わいのマーケット
「メイフェア」とはその名の通り年に一度、5月の15日間だけ開催される家畜取引の市で、1680年代にジェームズ二世が始めました。
この市場には裕福層から貧困層まで集まり、大道芸人や素手のボクシング大会、大食い競争などのエンターテイメントも加わった賑やかなマーケットとして名を馳せます。しかし、人気が出るに従って秩序が失われてしまい、1764年を最後に「メイフェア」の市はその幕を閉じました。
メイフェアの秩序が失われたのは貧困層が流入したからだと結論付けた地主は、その後は高級住宅地の開発に専心し、ハノーバー、グロスブナ―、バークレイ、ベルグラービアといった豪奢で美しいスクエアが建築され、今の高級住宅地メイフェアを形作る結果となったのです。
メイフェアのレデイ=マイフェアレデイ
オードリー・ヘップバーン主演の映画「マイフェアレデイ」(My Fair Lady)はイギリスの著名な劇作家ジョージ・バーナード・ショウの「ピグマリオン」が原作ですが、この映画のタイトルはメイフェアに由来しています。
市場の花売り娘のイライザは、ロンドン庶民の訛りであるコックニー訛りが強く、「メイフェア」を「マイフェア」としか発音できません。そんなイライザがメイフェアに住むレデイに変化していく様を描く映画なので「マイフェアレデイ」というタイトルになったのです。
メイフェアがいかに高級住宅地として知られていたかを示すタイトルですね。
シェパード・マーケットの誕生
メイフェアが開催されていた跡地は、近くに住んでいた建築家エドワード・シェパードが買い取り、歩道や池、小さなスクエアと二階建てのマーケットや劇場が建設されました。
この新しいマーケットは周辺に住む貴族やブルジョワジーが好んで訪れるようになり、村落のマーケットを彷彿させながらも高級感のある現在のシェパード・マーケットの原型となります。マーケットの名前にある「シェパード」は羊飼いではなく開発者の名前だったんですね。
シェパード・マーケットの中心的存在は、今も昔も1742年創業の葡萄亭(Ya Grapes)です。いかにもイギリスらしいトラディショナルなパブは、近隣のオフィスに勤める人々や近所の住人達で今日も賑わっています。
各国料理のラビリンス
迷路のような路地にはテーブルと椅子が並び、各国料理に舌鼓を打つ人々の姿が。
北トルコ料理のSofra、レバノン料理のAl Hamra、モダン英国料理のKitty Fisher’s 、伝統的フランス料理のLa Boudin Blancなどがあります。
変わり種は、ポーランド料理とメキシコ料理の両方のメニューがあるL’Autre Polish & Mexican Restaurant。
こちらは特に週末の夜になると、ポーランド名物のウオッカですっかりご機嫌になった人々で大賑わいに。更にはYazu Sushiという回転寿司も!寿司好きイギリス人で賑わっていました。
サンドイッチでピクニックはいかが?
カジュアルにランチをという方には、ピッコロ・バー(Piccolo Bar)がお勧めです。
バーと言えど、こちらはサンドイッチ・バー。店内に入ると目の前にあるカウンターから好きな具を選び、好みのパンの種類を告げると、目の前でサンドイッチを作ってくれるシステムです。
選びきれないほど具の種類が豊富で、チーズやツナといったスタンダードな具から、グリルチキンやエスカロープ(子牛の薄切りカツ)といったボリュームのある具まで豊富に揃っています。「Melt」と注文すればホットサンドにしてくれますよ。
店内で食べても良いですが、天気が良ければテイクアウトして、マーケット内のベンチや大通りを渡ったグリーンパークで食べるのも楽しいですね。
メイフェアでバーゲンハント?!
シェパード・マーケットには、レストランの他にもギャラリーやインテリア雑貨ショップ、紳士服や雑貨のセレクトショップ、ハバナ葉巻を売るタバコニストなどがあり、ぶらぶらウインドウショッピングするのも楽しいものです。
マーケットとは言えお値段はメイフェア価格ですので、あくまで見て回るだけですが。例えば下の紳士コートは元値2595ポンドが大バーゲンの695ポンド。日本円にすれば37万円が10万円といった所でしょうか。
元値の4分の1という大バーゲンですが、気軽に買える値段ではありませんね…
ジーブスとウースターの住んでいた通り
シェパード・マーケットの隣にある半月通り(Half Moon Street)は、イギリスの人気コメデイ小説シリーズ「ジーヴスとウースター」(Jeeves and Woster)の二人組がロンドンで住んでいたフラットがあったとされる場所です。
お気楽で間の抜けた貴族のウースターが引き起こす事件を、彼に仕える有能な執事のジーヴスが解決していくというストーリーで、1990年にはテレビドラマ化されました。田舎に大きな家を持つ貴族が、社交のためにロンドンにフラットを持つとしたら、やはりメイフェアであったのでしょうね。
シェパード・マーケットとその周辺にある「紳士の散髪店」(Gentlemen’s Hairdresser)や男性用身嗜み商品の老舗も、彼らのような紳士たちが利用したのでしょう。
イギリス好きにお勧めのドラマ
イギリスを代表する名俳優のステイ―ブン・フライとヒュー・ローリーが主演するドラマ「ジーブスとウースター」の舞台となるエドワード時代のイギリスは、日本人の思い描く英国のイメージがぴったりと当てはまる雰囲気です。
また、ジーブスの慇懃無礼な物言いや、ウースターのひょうきんな言い回しは、これぞイギリス英語の典型と言えるものです。
日本でもネットショップ等でドラマのDVDが入手できるようですので、イギリスとイギリス英語にご興味のある方は、ぜひご覧になってみてください。
終わりに
世界でも有数の高級住宅地、メイフェアの裏道に今も残るシェパード・マーケット。悪名高き「メイフェア」から、ビレッジの雰囲気を残すお洒落なマーケットに変身した当時の面影を今も残しています。
グリーンパークやピカデリーにお出かけになった際には、ちょっとこのマーケットに寄り道して、ロンドンの古き良き時代を味わってみてください。
シェパード・マーケットの現在と過去の姿をご覧になりたい方は、こちらの動画をどうぞ。
Shepherd Market: A Mayfair village frozen in time
Shepherd Market: A Mayfair village frozen in timeDiscover a historic gem of an area, just off Piccadilly
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