ロンドン観光の醍醐味は、何といっても街歩き
石畳の小道の両側に立ち並ぶ古い建物を見上げながら歩くと、ふとジョージアンやビクトリアン時代に迷い込んだ気分になります。
そんな時、こんな立派な建物を今では一体誰が何のために使っているのだろうかと疑問に思ったり、ちょっと中を覗いてみたいと思ったことはありませんか?
「オープンハウス・ロンドン」はそんなあなたの疑問に答え、願いをかなえてくれる二日間です。
オープンハウス・ロンドンとは?
オープンハウス・ロンドンは、9月の特定の週末に普段は一般に公開されていない建物、例えば外務省や国会議事堂などの政府省庁、個人の家、同業者団体などを無料で一般公開してくれるイベントで、誰でも気軽に参加できます。
1992年に小規模なチヤリテイ団体が始めたこのイベントですが、年を追うごとに人気となり、最近では混雑緩和のため事前予約が必要な場所が増えてしまいました。
それでも全部で750以上の建物が公開されますから、当日ふらりと訪れるだけで見学できる場所もたくさん残っています。
それでは、具体的にどんな場所を見学できるのかご紹介していきましょう。
ステイショナーズホール:出版業の同業組合ホール
ステイショナーズは1403年設立の歴史を誇る、筆写、製本、印刷、製紙など出版に関する同業団体です。
そのため、本の上に王冠が載っているマークがあちこちで飾られています。1666年のロンドン大火で元々あったホールは消失してしまいましたが、1670年から再建が始まった現在のホールは大戦にも破壊されず、シテイでも指折りの美しいホールとして有名なのだそう。
因みに、本の他に紙やペンも扱っていたため、現在でも文具をステイショナリーと呼んでいるんですね。イギリスはこのような同業種団体が110あり、その多くが中世からの伝統を引き継いでいるというのですから、改めてその歴史の深さと現代との繋がりに感嘆を禁じえません。
(ステイショナーズ ホール 王冠のシンボル)
(ステイショナーズ ホール グレイトホール)
ロンドン屈指の高級住宅の内部やいかに?!
ベルグレービアはバッキンガム宮殿の西に広がるロンドン屈指の高級住宅地。
中でもベルグレーブ・スクエアを囲む邸宅は、「ロンドンで最も高価な住所」と呼ばれています。庶民はエレガントな建物を指をくわえて眺めるしかできませんが、オープンハウス・ロンドンの日は大手を振って見学する事ができます。
オープンハウスの緑色の横断幕が入館できるサインです。2016年はスクエアを囲んで4軒がその門を開いていましたが、角地に立地しているため他の建物より豪華なルーマニア文化会館に入ってみましょう。
(ルーマニア文化会館エレベーション)
ジョージアン時代の建売住宅?!
ベルグレーブの建物は、イギリスが最もファッショナブルだったジョージ王朝期に、最もお洒落な住宅街として設計されました。つまり、今で言えば建売の個人住宅なんですね。
それにしても、当時のイギリス貴族のお金持ちぶりは半端じゃないことが窺えるインテリアです。
天窓のある階段室も美しく、第二次世界大戦直後までは、こんな贅沢な空間を家族で使っていただなんて、庶民の私には想像ができません。しかし何と、現在でも個人所有のオーナーが30人いらして、そのうち27人は外国籍なのだとか。世の中にはまだまだ見知らぬ世界があるんですね…
(ルーマニア文化会館シャンデリア)
(ルーマニア文化会館階段)
未知を知る楽しみ
こちらの建物は現在ルーマニア文化会館として使われているので、当日はルーマニアの歴史と王族についてのフィルムを流していました。
これまであまり知識のなかった国ですが、豊かな文化と資源を持ちながらも、ロシアとドイツという大国の狭間で歴史に翻弄された国なのですね。
イギリス王室とのつながりも深いそうで、思わず時間を忘れて見入ってしまいました。このように思わぬ知識を得る事ができるのも、オープンハウスの特典なのです。
(ルーマニア文化会館フィルム)
ロンドン郊外にもある知られざるお宝
オープンハウス・ロンドンは、セントラル・ロンドンだけでなくロンドンの30のボローで開催されています。
ロンドンにお住いの皆様のお近くに、実は意外な歴史ある建物が隠されているかもしれませんよ。
例えば、こちらはワンズワースボローにあるローハンプトン大学ホワイトランド校舎。サマセットハウスを設計したチェンバースによる美しいパラデイアン様式の建物は、バッセボロー伯爵の邸宅として建築されました。現在は高層のカウンシルフラットに囲まれて学生以外は訪れる人もいません。
ところがここには、ウイリアム・モリスによるレレドスと呼ばれる壁面装飾が秘蔵されているのです。
モリスによるレレドスは他に例がなく大変貴重なものであり、光による色彩劣化防止のため普段はシャッターの後ろの暗闇に隠されているのですが、オープンハウスで幸運にも目にする事ができました。
(ホワイトランド)
(モリス レレドス)
生活に密着したアートアンドクラフトの神髄に触れる
同校内にはモリスと同じ時期に活躍したラファエロ前派アーテイスト、バーン・ジョーンズによるステンドグラスも保存されています。
これは、この大学がラスキンやモリスといったアートアンドクラフトの運動家と親密な関係にあったからで、このように、カウンシルフラットに囲まれた何の変哲もないロンドン郊外で、思わぬお宝に巡り合えるのもオープンハウスの楽しみと言えるでしょう。
そう言えば、この大学から程近いオールセインツ教会にもモリスのステンドグラスがありました。
アートアンドクラフトは美術館や博物館に収蔵される美術品として作られたのではなく、人々の日々の暮らしをより豊かにするために、生活に密着した場面に向けて作られたのだと改めて実感しました。
(バーンジョーンズステンドグラス)
オープンハウス・ロンドン、2017年は?
オープンハウス・ロンドンは、通常9月中旬の週末に開催され、2017年の会期は16日~17日となります。
この時期にロンドンを訪れるご予定のある方は、ぜひ日程に組み込んでみてください。ロンドンに住んでいながら、まだオープンハウスを経験したことのない方は、この週末を開けておいてくださいね。
特に建物には興味がないという方は、ナショナルトラストが管理している通常は入場料が必要な建物に、無料で入場できる場合もありますので、まずはそちらをお試しになってはいかがですか?
また、歴史的建物だけでなく、新しいランドマークやエコロジーに拘った建物も数多く公開されていますので、どなたでもお気に入りの建物が探せると思います。
展示の都合上、子供の入場を制限している場所も稀にありますが、多くの建物では子供向けのイベントを併催するなど、ファミリーで過ごす週末イベントとしても楽しめます。
オープンハウスのガイドブックは図書館でゲット!
オープンハウスで公開する建物は開催年によって異なる場合があります。こちらでご紹介した建物も、毎年の公開が保証されている訳ではありませんのでご了承ください。
8月中旬頃には、WEBサイトでその年の公開物件の詳細が発表されますのでご参考になさってください。
Open House London
Open CityOpen City makes architecture and built heritage more open, accessible and equitable.
公開物件の詳細は公式ガイドブックにも記載されています。こちらはプレオーダーで購入(£7)することも可能ですが、ロンドン市内の図書館にて無料で入手できます。
かなり立派なガイドブックで、値段もプリントされているため黙って持ち去るには気が引けますが、8月中旬から図書館の受付に山積みされていると思いますので、係員の方にひと声かければ笑顔で渡してくれますよ。
毎年9月はオープンハウス・ロンドンでますますロンドンを好きになってください!
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