多民族国家マレーシアは、ウェディングも民族により様々。中華系、マレー系、インド系と、結婚式にまつわる風習がそれぞれ異なっていて、興味深いです。結婚式にたどり着くまで新郎に関門が待ち受ける中華系、新郎新婦が豪華なカウチソファーに座ってお披露目するマレー系、そしてエキゾチックな儀式が沢山のヒンズー系ウェディング。今回は、ウェディング風景を通してマレーシアの多民族性がわかるようなお話を、ご紹介します。
結婚式前の儀式が盛り上がる!中華系
まずは、中華系ウェディングについて。中華系マレーシア人と結婚した知人、鐘真理子(しょう まりこ)さんからの話をもとに、ご紹介します。(掲載写真は、ご本人と関係ありません。)
「結婚式の日は、風水で吉日を選びます。結婚の前夜、新郎新婦は顔を合わせず、それぞれの家でパーティーすることが慣例となっています。新婦は、母に髪を3回とかしてもらいますが、それは白髪になるまで添い遂げるという意味があるとか。寺院に参拝に行くこともあります。」
“人は生まれた時に運命が決まっている”という四柱推命の考えに基づき、仏僧か信頼できる風水師・フォーチュンテラーに吉日を導き出してもらいます。吉日を選ぶと、新郎新婦だけでなく、親戚一同にハーモニーをもたらすと信じられているためです。
「いよいよ結婚当日。新婦が家のドアに赤い布をかけておき、新郎の友人や親戚とともに新郎が新婦を迎えに行きます。」
筆者の調査によると、はるか昔は、赤い色で装飾した木の馬車で新婦を迎えに行ったとか。現代では、それが車となりました。マレーシアに住んでいると、花などで綺麗に装飾されたウェディングカーを見かけることがあります。
「新婦宅では、新婦側の親戚が、新郎に数々の質問や難題を振りかけます。例えば、二人が知り合ったいきさつを聞く、歌を歌え、など何でもあり!新郎がすべての質問に対応したら、新婦側の親戚が“給開問紅包、ドアを開けるならホンパオ(お年玉)を下さい”と言い、新郎はホンパオを渡します。通常、値段は9,999リンギット(約268,800円)が理想ですが、新郎は通常値下げ交渉をするとか。新郎が新婦を迎えた後は、家族・親戚一同がそろい、新婦が新郎の親戚にお茶をくむ儀式となります。」
上記儀式が結婚式のようなもので、その後始まる結婚式はお披露目的な意味合いが強くなります。レストランや式場で、エンターテイメント付きのディナーをして披露宴をすることが一般的。
結婚前夜と当日の儀式は、盛り上がるとともに、じわりと心にしみる素敵な儀式がいっぱいですよね!
音楽隊が世界に幸せを知らせる!マレー系
次にご紹介するのが、マレー系ウェディング(ムスリム)の結婚式。話を聞いて一番驚いたのが、“招待客が新郎新婦に会えたらラッキー”ということ。長時間〜数日にわたって開催されることと、新郎新婦が片側の親戚との結婚式を別のロケーションで同日開催し、会場移動をすることがあるためです。それだけでなく、新郎が一方の披露宴に出席している中、新婦が別の会場にいるなんていうことも!
また、日本では、女性招待客は白い色の服装を避けるなどタブーがありますが、マレー系のウェディングでは着ていけない色はありません。お祝い金も日本のように数万円ではなく、2,000円程度でもよいとか。女性の招待客は女親に、男性の招待客は男親にと、新郎新婦の親に手渡しをするのが、一般的です。
結婚式当日、新郎がHadrah(ハドラ) やKompang(コンパン)と呼ばれる音楽隊を引き連れて新婦の家に迎えに行くところからスタート。新婦の家に到着すると、新郎は新婦の家族にお金を払います。金額は、新婦の家族のリクエストによる時もあれば、新郎側に任せる場合も。新婦の教育、職業、社会的地位、また個人的理由により金額が上がることもあります。新婦の家族は、お金だけでなく、金のブレスレットやネックレスなどを追加でお願いすることもあるとか。
そして、式は新郎新婦の家またはホテル、レストランなどで続いて行われます。通常午後に行われる“式のハイライト”は、『Bersanding (ブラサンディン)』。“カウチソファーに新郎新婦が一緒に座る”という意味です。カウチソファーは『Pelamin(ペラミン)』と呼ばれ、式場で最も重要なアイテムとなります。Pelaminの一つは新郎の家から、もう一つは新婦の家から持ち寄るのが慣例。カウチソファーの前に備えられた燭台の上には、料理された黄色い米が入っており、介添人に感謝の印として捧げられます。
披露宴の食事は、ビュッフェスタイルが一般的。お食事をしつつ、伝統的なドラムの演奏などエンターテイメントが入ります。一連の儀式とお披露目の後は、コーランの一節を唱える音楽隊とともに新郎の宅に戻ります。これは、世界に結婚を知らせる意味があるとか!最終的には新婦の家族に敬意を示すため、新婦宅に移動します。マレー系のウェディングは、新郎新婦の自宅が近くないと、オーガナイズするのが難しそうですね!
ゴージャスな披露宴にすることもあれば、イスラムの信念に基づき控えめにランチ・レセプションだけにするカップルもいて、様々。筆者は“楽隊とともに街を練り歩く”という風習が、色々な人に祝福してもらえて素敵だと感じました。
金・ヘナタトゥと衣装が美しいインド系
インド系の中でも、ヒンズー教の人々のウェディングについてご紹介します。
ヒンズー教のウェディングは、装飾や新婦の衣装やメイキャップに会場装飾が大変華やかであることと、多くの儀式が取り行われることが特徴です。驚くような習慣の違いが色々ありますが、まず最初に驚くべき点が、招待客数や出欠が決まっていないこと。家族・親戚とのつながりが深いインド人コミュニティーでは、例えばひと家族から1〜2人が招待されるとしたら、結婚式当日何時に行ってもいいし、知り合いを突然誘って行っても歓迎されます。なので、遅刻をして行っても誰も怒らないどころか、少しでも顔を見せただけで大喜びされます。そのため、新郎新婦側は何人来ても困らないように大量の料理を用意するとか。ゲストは、到着するとローズウォーターを振りかけられて、迎え入れられます。
また、日本及び先ほど紹介した中華系では、吉日を意識した結婚式の日取りが重要視されますが、ヒンズー教の結婚式では日取りだけではありません。選んだ時間まで、結婚の行く末に影響を与えると信じられています。通常寺院の僧侶が『Muhurtha dates(ムホウタ デーツ)』と言われる、結婚式の日時を決めるサポートをしてくれます。Muhurtha datesは、新郎新婦の誕生日とインド占星術に基づいたそれぞれの星座をもとに、決められます。そのため、時には朝5時などの明け方が“もっとも結婚式に適した日”と選定されてしまうこともあるとか!
結婚式の最中に執り行われる儀式も、興味深いものが沢山。まず、当日はヒンズー寺院にて、新婦の家族・親戚が待つ中、新郎が到着します。新郎の兄弟などが務めるベストマンが新郎の足を洗い、足の指に指輪をはめる儀式を行います。新郎は感謝のしるしに、金の指輪を義理の兄弟となる男性にプレゼントします。新婦もまた、後の儀式で新郎から足の指輪を新郎から受け取ります。
続いて新婦が到着すると、新婦の父親が母親の許しを得た上で、新郎の両親に娘を“与える”儀式となります。新婦はこの後サリーを3回着替えることに!
新婦は、できる限り多くのジュエリーを付けると良いとされているため、とても華やか。ステータスの証であり、たくさんのジュエリーを式で付けるほど、今後の人生も豊かになると信じられています。なお、ジュエリーの90%は新婦側が準備しないといけないとか。インドでは新婦の多大な持参金が有名なように、持参金にジュエリーにと、インドで女の子をもった家族は金銭的負担が大きく大変なのでは、と思いましたが、筆者の元同僚のヒンズー教女性の話が印象的なので、紹介します。「男の子どもは、きちんと海外の大学などに行かせて将来を設計してやらないといけない。女の子どもは、どうせお嫁に行くので、持参金だけ用意すればいいの。男の子の方が、お金がかかる!」
その後は、首飾りの儀式『Mangalya Dharanam (マンガルヤ ダラナム)』。新郎が新婦の首の周りに3回結び目を作ったネックレスをかけます。その時、招待客は一斉に新郎新婦に黄色い米を振りかけ、祝福します。
続いて、『Kumkum (クムクム)』というターメリック、ローズウォーターなどを混ぜて作った赤いペーストを新郎が新婦の額につけます。これらの儀式が、正式に“妻”となった証となります。
式が終わると、招待客は新郎新婦の親、親戚全員、特に年長者や新婦の親に挨拶をして帰ります。食事や会場デコレーションなどを褒めることを、忘れずに。豪華絢爛な、ヒンズー教のウェディングでした。
イスラム教国家でも、民族ごとに異なるウェディングの伝統が継承されているのは、信仰の自由を認めるマレーシアだからでしょう。上記のような素敵な儀式が見られるなら、「ぜひ招待されてみたい!」と思いませんか?
・写真協力:
<中華系>
-Yun Huang Yong: 1番目
-Bernard Oh: 2、3番目
-amrufm: 4番目
<マレー系>
– Sham Hardy:1〜3番目
– Imran Shamsul : 4番目
– Mohamad Yusri Mohamad Yusof:5番目
<インド系>
– Yculture:2〜4番目
-m-bot: 6番目
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