アムステルダム中心街からみてやや南西に位置するプランテージ地区は、緑が多く、散策にちょうどいい閑静な地区です。その中心は「アルティス動物園」ですが、その隣には知る人ぞ知る、小さくても存在感たっぷりのミュージアムがあります。それが世界で唯一の微生物のための博物館「マイクロピア」です。
オランダの微生物研究の歴史
2014年にオープンしたマイクロピア博物館は、アルティス動物園の門を入ってすぐ右手の建物にあります。1674年にアントニ・ファン・レーウェンフック博士がこの場所で、世界で初めて「微生物」の存在を発見したのが微生物研究の始まりだと聞くと、歴史を感じますね。
博物館へのアクセスは、アムステルダム中央駅からは9番トラム「Diemen」行きに乗り、停留所「Artis」で降りれば動物園の前に着きます。
心躍るミクロ・スケールの冒険
入ってすぐ、モスラの幼虫をほうふつとさせるような、とても大きなマスコット人形が目に飛び込んできます。これがちょっと気持ち悪いけれど、どこか可愛いですね。思わず記念撮影したくなります。
人形の左手にあるチケットカウンターで、入場券を購入しました。大人(10歳以上)は14ユーロ、3歳から9歳までの子どもは12ユーロ。オランダのミュージアムカードがあれば入場無料で、オンラインでもチケットは買えます。なお、アルティス動物園にも入場したい場合は、チケットを合わせて買うとお得です。
チケットをスキャンして門を通ると、小さな展示に囲まれたエレベーターの前でスタッフの指示を待ちます。時間になると、スタッフのお兄さんが博物館の成り立ちや館内の見どころについて手短に英語で説明してくれました。同時に、ペトリ皿をモチーフにした丸っこいパンフレットが配られます。館内には合計30個の「微生物」モチーフのスタンプが設置されていて、それを集めると、1つずつスキャンしてその微生物の詳しい情報や映像が見られるようになるとのこと。お気に入りの微生物だけ集めてもよし、全30種類をコンプリートするもよし……と遊べる要素が満載です。筆者は全てのスタンプを集めることにしましたが、さて、どうなることやら。
エレベーターに乗ると、その天井に私たちのライブ動画が映されていました。「あなたたちの微生物を分析します……」というミステリアスなアナウンスと映像が終わったかと思うと、エレベーターの扉が開き、薄暗い展示室に到着します。探検に出かけるような、わくわくする仕掛けが施されていて素敵です。
選りすぐりの展示5つをご紹介
展示室には、さまざまなテーマや角度から微生物について学べる展示が数多く用意されていました。顕微鏡を自分で覗いて標準を合わせ、微生物を観察できるものや、タッチパネル形式のスクリーンで鮮やかな映像を見て学べる装置や、大きなディスプレイで微生物の歴史がわかるものなど、内容も展示方法も様々で、生物に興味がある方なら誰でも夢中になってしまうような魅力的な展示です。その中でも、特に面白かった展示はこちらの5つです。
1)自分で顕微鏡を覗けるコーナー
多くの展示には、自分で動かせる高機能の顕微鏡が使われていました。ペトリ皿やフラスコの中を今まさに泳いでいる生きた微生物を観察できる展示です。それぞれの微生物についての情報は、デジタル画面にタッチすれば詳しく学ぶことができます。研究だけではなく、展示にも3Dなど最先端の技術が活かされています。まるで「本日のメニュー」のように、「本日の微生物」と黒板に書かれている展示もあって面白いです。実際に研究者が働いているラボラトリーも覗くことができます。日々の研究で、まだまだ多くの知られざる微生物たちの世界が明らかになっていくようすが想像できて、ロマンを感じますね。
2)微生物の増殖方法を説明する3D映像
こちらの機械では、ぐるぐる回して画像の載ったスロットの標準を合わせると、その微生物がどのようにして増殖するか、3D映像で学ぶことができます。この映像がとてもよくできていて、見ごたえがあります。微生物というと細胞分裂をするばかりだと思っていましたが、その増え方はさまざまで、卵のように生まれて増えるものもあれば、他の微生物を食べるようにして増えるものもあり、思わず魅了されます。微生物は人間の目には見えないほど小さくても、その世界は多種多様で大きな広がりを持っていることがよくわかります。
3)アリと深海魚
巣の中でキノコを育て、共生しながら生きるアリも展示されていました。虫が苦手な方にはちょっと辛いかもしれませんが、キノコを育てるために必要な植物の葉っぱの切れ端をせっせと巣の中に運ぶアリたちの姿が観察できます。
また、暗闇の中で光る微生物を眼の中に持つ深海魚の水槽も展示されていました。群れになって動く魚たちの目だけが蛍光色に光っていて、とても神秘的です。こんなところにも微生物が潜んでいるんですね。
4)私たちの体に棲む微生物を知る
映像の前に立って両手をあげると、機械が私たちの体をスキャンして、体の各部分に棲みついている微生物について情報を取り出してくれます。驚くほどたくさんの微生物が人体に潜んでいることが実感できる展示です。
5)日用品に付着している微生物が見られる映像
標本としてずらりと壁に展示されているのは、テレビのリモコンや台所のスポンジや可愛らしいぬいぐるみなど、どれも日常生活で見慣れたものばかりです。実はここには、それぞれの日用品に潜む微生物が培養・観察され、動画で展示されているんです。ごく普通の携帯電話をちょっとペトリ皿に触れさせただけで、恐ろしいくらいの勢いで増えていくバクテリアを眺めていると、自分の携帯電話さえ、微生物が数えきれないほど棲んでいるのが分かります。それでも、人体に直接の害はなく、むしろ私たち人間の体の中に棲みついて、共生している微生物たちがいて、見えないところで働いてくれているのだと思うと、むしろ感謝の気持ちが沸き起こってきます。
この他にも、アルティス動物園で生まれたキリンの赤ちゃんの死体も展示されています。普通なら、死んだ動物の体はバクテリアによって時間をかけて分解されますが、ここのキリンの赤ちゃんの体は放射能で微生物の働きを止め、展示ケースの中を真空状態にし、いわば時を止めた状態にして展示されているのだと館内スタッフから聞きました。
身近な微生物を発見
1階部分には、微生物や菌類の働きを活かして作られた商品なども展示されていました。中には日本人にとって見慣れた飲み物「ヤクルト」の姿も!
フロア中央には、冒頭でスタッフから説明を受けたスタンプラリーの微生物をスキャンする機械がありました。お気に入りの微生物を大画面に召喚できるプロジェクターになっています。
館内をめぐりながら、ここまで筆者はスタンプを必死に探したのですが、惜しくも28個しか集めらられませんでした。それでも、ペトリ皿の部分には今までに見つけたり学んだりした微生物たちの姿がびっしりと集まっていて、達成感とともに、微生物たちにちょっとだけ愛着を感じました。
微生物の存在が身近に感じられて、その魅力がばっちり伝わるマイクロピア博物館。他にはないちょっと変わった体験がしたい方や、生き物の不思議に触れたい方にはぴったりです。アムステルダムに数ある博物館の中でも、個人的に特におすすめしたいミュージアムです。
インフォメーション
名称:マイクロピア(Micropia)
住所:Plantage Kerklaan 38-40, 1018 CZ Amsterdam
開館時間:月曜から水曜と日曜は9:00~18:00、木曜から土曜は9:00~20:00
公式ウェブサイト:https://www.micropia.nl/en/
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