ハーレムの穴場・テイラース美術館

オランダ

ハーレム市の中心街を抜けた運河沿いの通りに、テイラース美術館(Teylers Museumというオランダで一番古いミュージアムがあります。市街ではあまり有名ではありませんが、歴史も見ごたえもある素敵な私立美術館です。1784年にオープンして以来、設立当時の雰囲気そのままに豊富なコレクションを広く公開しています。

 

知られざる穴場的アートスポット

この美術館の資本を築いたのは、18世紀に絹商人、そして銀行家として成功を収めたピーター・テイラースさんというハーレムの住人でした。彼は同時代のオランダの芸術家の絵画や、恐竜の化石や鉱石といった科学標本、価値のある硬貨、天文学や科学にまつわる実験装置や道具、書籍などを幅広くコレクションしており、その膨大なコレクションを死後に一般の市民に広く公開し、役立ててほしいと考えていました。その遺志を継いで、私立の財団によって、科学・芸術についての啓蒙を目的として、1784年にこのテイラース美術館がオープンしました。以来、オランダで一番古い美術館だといわれています。

この美術館への行き方は簡単です。まず、ハーレム駅から歩いて10分ほどで、街の中央にある教会の広場に到着します。広場に出て東側に進み、運河に突き当たったら左手に曲がれば、テイラース美術館の立派な建物が見えます。屋根の上に天使などの彫刻が何体も立っていて、周囲でも目立つモニュメント的な存在なのでわかりやすいはずです。

 

クラシックな雰囲気漂う展示空間

受付の初老の男性スタッフは、スーツにネクタイをきちんと着こなした紳士でした。チケットは大人が12.5ユーロ、17歳以下は2ユーロです。発券したあと、音声ガイドとラミネートされた館内の簡易見取り図を渡してくれ、「もし私があなたなら……10~15分くらいかけて館内全体を歩いた後、興味のある展示をじっくり観ることにします」とのこと。つまり、館内はけっこう広くて、展示品の点数はものすごく多いので、最初から全部見ていたら時間がかかってきりがないのだそうです。

建物に足を一歩踏み入れた時から、その雰囲気のある建築の美しさに心打たれます。展示室の入口から部屋の向こうを見通すと、大きな恐竜らしき動物の骨格標本や、鉱石の輝きが見えて、心躍ります。最初の展示室には、さっそくマンモスとインドゾウの頭蓋骨が3つ並べられていて、見たことがないような見事な始祖鳥や古代の植物、海洋生物の化石もありました。

受付での忠告通り、館内を一通り見通すつもりが、化石の豊富なコレクションに思わず立ち止まっていると、「まずは10分、15分かけてざっと見るのがおすすめですよ」と、背後から声をかけられてびっくり。振り返って見ると、スタッフのおじさんが微笑みながら立っていました。

次の展示室へ進むと、おじさんが床に並んでいるいくつもの鉄瓶を指さして、「これは、発明当時の最新技術が使われた実験装置です。今の電池のように、電気のようなエネルギーをためておくためのものだったんですよ」と説明してくれました。エネルギーにまつわる技術がどう生み出され、現代の姿に発展していったのかが現物を見ながら想像できます。このような珍しい実験装置や科学実験のための道具、模型などテイラース美術館には数多く集まっています。

 

建築としての魅力もたっぷり

 

「もし科学や芸術に興味があまりなかったら、建物をよく見てみたらいい。本当に美しい建築ですよ」

そう促されて天井を見上げると、改めて部屋の美しさに目を見張りました。この円形ホールと呼ばれる美しい広間の2階部分には、科学芸術に関する貴重な資料が納められた本棚が優雅なカーブを描いて設置されています。メダル状の装飾には、ギリシャの科学者たちのプロフィールが浮き彫りされています。

 

科学・芸術にまつわる圧倒的なコレクション

 

とにかく、考古学や科学に興味のある人なら誰でも夢中になってしまうような、豊富なコレクションが圧巻です。中でも筆者が興味深く拝見したのは、円形ホールのすぐ右手にある真っ暗な小部屋の展示でした。一瞬、「部屋の電気が切れているのかな?」と思いましたが、扉が開いていたので、恐る恐る足を踏み入れると、ガラスの展示ケースの中の照明だけがぱっと点きました。部屋は暗いままでしたが、鉱物や石が並んでいるのが目に飛び込んできたのでそれらを眺めていると、またケース内の電気が消えたかと思ったら、ブルーの紫外線ライトに照らされて、鉱物や石に交じった蛍光塗料が光り出しました……! 展示された自然物に含まれた化学物質が、神秘的な明かりを放っていて、その姿に魅了されてしまいました。そう、この小部屋には、色や光り方が異なる蛍光体がコレクションされていたんです。この蛍光物質が科学者によって発見され、今の蛍光灯やプラズマテレビが発明されたのだと思うと、感慨深い気持ちになります。珍しい体験ができる展示スペースなので、訪問の際はぜひチェックしてみてください。

 

オランダの風俗画が充実

 

他にも、絵画作品のコレクションが並ぶ展示室が2つあり、いずれも室内中央に置かれたソファに座ってゆっくり鑑賞することができます。主にレンブラントなどの有名なオランダ人画家のスケッチや油彩画などの質の高い絵画作品群を一気にまとめて、落ち着いた雰囲気の空間で観ることができます。ハーレムやデン・ハーグ、アムステルダムなどのオランダの街の昔の姿や、伝統的な衣装やドレスを身に着けた人の肖像画、昔の生活スタイルや習慣がわかる絵画もたくさん並んでいました。

絵画の展示室には、ミケランジェロ、レオナルド・ダヴィンチなどのスケッチの版画などもコレクションされています。壁沿いのドロワーには、ほかにもデューラーなどの有名画家の作品の版画コレクションが冊子状の箱に納められていて、興味がある人は自由に閲覧できるのだそうです。

 

中庭に面した緑あふれるカフェ

 

ミュージアムカフェもこの美術館の魅力の一つです。広々としたカフェは中庭に面していて、壁と天井には子どもたちの手による自由な感性が活かされたアート作品が所狭しと並んでいます。天気の良い日には、庭に迫り出したテラス席でティータイムを楽しめば、最高の時間が過ごせそうです。

ミュージアムショップは、チケットカウンターのある入口付近に広々としたスペースをとって設けられています。

科学芸術にまつわる書籍やグッズがとても充実しているので、こちらも時間があればぜひチェックしたいところです。

美術館全体を鑑賞するためには、少なくとも1時間程度は必要だと思います。科学実験の装置には英語でのキャプションが添えられていることが多いので読みごたえがありますし、音声ガイドでの英語の解説も楽しもうと思ったら、1時間半は確保しておきたいくらいに充実した内容のミュージアムです。ハーレムの街でも一番おすすめできる観光名所だと思います。知る人ぞ知る穴場アートスポットのテイラース美術館、ぜひ訪問してみてくださいね。

 

インフォメーション

名称:テイラース美術館(Teylers Museum)

住所:Spaarne16, 2011CH, Haarlem

開館時間:10:00~17:00(火~金曜日)、11:00~17:00(土日祝日)

公式ウェブサイト:https://www.teylersmuseum.nl/en/teylers-museum?set_language=en

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