「独立記念日」がマレーシアの人々にもたらす思い

マレーシア

去る8月31日は、マレーシアにとって、年で最も重要な日。『Hari Merdeka(ハリ・ムルデカ)と言って、マレーシアの独立記念日。今年は、59回目を迎えました。毎年この日になると、街がざわめき、ムルデカ・スクエアでは盛大なパレード、各地でお祝いと盛大な花火が上がります。今回は、筆者の周辺で見た独立記念日の様子と、独立記念日がマレーシアの人々にどのような意味があるのか、ご紹介します。

独立記念日前夜は「日本の大晦日みたい」

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独立記念日が近づくと、筆者が住むクアラルンプール市内では、国旗があちこちで掲げられ、ざわめいたムードとなります。高層ビルを上から下に横断するかのような巨大な国旗、誰にも気づかれなそうな工事現場の足場にも可愛らしい小さな国旗、マンションの各家庭がベランダに掲げる国旗など、大きさや形態はそれぞれ。

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日本では、これほど多くの国旗をあちこちで見られる日がないため「なんて愛国心が強く、それを堂々と表す国なんだろう。」と素朴に驚きました。また、マレー系の方々と話すと、独立記念日には家族親戚一同が集まる団欒の時でもあるため、楽しみにしているようでした。

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独立記念日前夜になると、午後16時頃から大通りに、焼きトウモロコシや鮮やかな色のジュースが売られる屋台が並び出します。働く人が、この日ばかりは足早にオフィスを後にする姿が、多数見られました。ざわめいたムードは、日本の大晦日の雰囲気を思い出しました。クアラルンプールの象徴『ペトロナス・ツインタワー』では、日付が変わる時に盛大な花火が上がるため、それを見るために夕方からたくさんの人が周辺に集まり始めます。午前12時近くになると、人・人・人。大人だけでなく、夜中なのに小さい子どもも外出しているのが、珍しくありません。タクシーの運転手が「今夜は盛大なお祝いの日。みんな外に出かけてフィーバーだぜ!」と楽しそうに話していましたが、まさにその通りの光景。

昨今のテロが頻発する社会情勢から、人が大勢集まるイベントを避けてきた筆者は、夜間外出しませんでしたが、実際にツインタワー周辺に外出していた方のブログや『YouTube』投稿をチェックしてみました。ツインタワーのお膝元、噴水広場で独立記念日当時の映像が映し出され、最後にマレーシアの国旗が画面に現れ、集まる人全員が一体となって国家斉唱をする様子がありました。国家斉唱が終わると同時、12時ちょうどに盛大な『ペトロナス・ツインタワー』で花火が上がり、筆者の自宅からは、かろうじて花火の裏側を見ることができました。

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マレーシアの歴史を顧みると、独立記念日がいかに国民にとって重要な日かが分かるため、思い思いに楽しむ人々を見て、感慨深くなりました。

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さて、独立記念日当日になると、記念式典がムルデカスクエア(独立広場)で行われます。ナジブ首相にアブドゥル・ハリム・ムアザム・シャー第14代マレーシア国王陛下もご高覧する祝賀イベントとして、マレーシアの警察特殊部隊がスキルをデモンストレーションしたり、軍隊が戦車とともにパレードしたりと、盛り上がります。その間、子どもから大人までマレーシアの国旗を振り、赤一色に埋め尽くされる絵には圧倒されます。このムルデカ・スクエアは、1957年に独立がなされた日の前夜、英国の国旗が下げられた、重要な意味を持つ場所。その日2万人の国民が見守る中、英国国旗が下げられると、全ての電灯が消灯され、静寂ののちに再びともる灯りともに、マレーシアの国旗が上がっていったとか。

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独立記念日は「プライドと誇りの日」

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『ハリ・ムルデカ』のムルデカは“独立”という意味ですが、独立記念日は、マレーシアの人々にとって、先人たちの貢献により自由がもたらされ、自由がもつ力の意味を今一度思い起こす日です。

ざっくりマレーシアの歴史を振り返ると、マレーシアがかつて『マラッカ王国』だった頃、シルクロード中継港として繁栄してきました。それが、1511年からポルトガル、オランダ、日本、そしてイギリスの植民地時代に。1957年8月31日にイギリス領からの独立を果たし、『マラヤ連邦』が成立1963年にはシンガポール、石油資源が豊富なサバ州に、サラワク州が加わった『マレーシア連邦』となります。1965年にはシンガポールが分離独立し、同国初代首相で、昨年亡くなった『リー・クワンユー』の、あの有名な演説へとつながりました。シンガポール建国の父と言われた彼が、涙を流して国民に訴えたという演説です。分離の背景は、まずシンガポールがマレーシアに統合することで、中華系が人口の半数以上を占めることになります。“マレー系”という意味は“イスラム教でマレー系の伝統に従い、マレーシア語を話し、先祖もマレー系マレーシア人であること”が定義だとか。簡単に言うとマレーシア優遇政策をしたいマレーシア側と、マレー系・中華系の平等を求めるシンガポール側とで折り合いがつかず、分離となりました。

今日、マレーシアはマレー系の人口が半数ですが、民族間対立から共存の道を見出す紆余曲折を経てマレー系、中華系、インド系と異なる民族が尊重しあう社会になりました。一つの国として歩み始めた日、すべては独立記念日から始まりました。そのため、愛国心と誇りを強く感じる“特別な日”となったのです。

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マレー系の子どもは、建国の歴史や国への愛、“誇り高きマレーシア人とは何か?“を学校教育だけでなく、写真のように祖父や、親から教わります。植民地時代に民族間対立を乗り越えて、多民族共存国となった建国のストーリーを聞いて育つ子どもは、愛国心が家庭から自然に育っていきます。そして、子どもは建国のストーリーを通して“どんなに困難な時でも希望を捨てず、必ず解決の道を見出す勇気”をもらう、と聞きます。幼い頃から繰り返し聞く歴史の話が、揺るがぬ愛国心につながっていき、独立記念日は単純に旗を振る日ではなく、マレーシア人としての誇りを思い出す日になるのです。

多民族共存から「融合」を目指す2020年

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今日、マレーシアで暮らしていると、異なる人種が共存しつつも、互いの生活習慣に踏み込まないようにしていることを感じます。例えば、中華系の寺があちこちにあって旧正月にはそこで盛大なお祝いがされ、彼らが仕事を休み祝う時に、マレー系とインド系は仕事をします。イスラム教やヒンズーの祝日の日には、その逆の現象が起きます。休日に出勤すると給料が倍になるという理由もあり、他民族の祝い事で仕事を休まない人が多いです。

また、マレーシアを出て海外で活躍する優秀な中華系マレーシア人も実に多く、筆者がシンガポール勤務時代にも、沢山出会いました。彼らと話すと、「できればこのまま海外にいたい。」と話す人が多いことに気づきます。学校教育では、マレー語は必須ながら多民族性を反映して数カ国語を習得するのが当たり前の、マレーシア。インド系の子どもに「国際社会で将来性ある中国語を習得させたい。」と、あえて中華系の小学校に通わせている人もいます。このように、独立以来、マジョリティーであるマレー系への優遇政策が、マイノリティーの人々の向上心と競争心へとつながったことも、あるのでしょう。

マレーシア政府が作り上げた、多民族統一国家。独立から共存までも苦難の道ですが、共存の先には一体何があるのか?その過程を見ることは、移民受け入れが今後進むであろう日本にとっても、参考になることがあるかもしれません。そして、共存の先にあるものについては、マレーシアはすでに道標を持っています。『Vision2020(ヴィジョン2020年)』という1991年にマハティール前首相による演説は、のちにそれが国家運営を規定する長期計画となった重要なもの。その中で、2020年までに先進国入りを目指すマレーシアは、多民族融合なくしてそれを成し遂げられないことを示しています。『ヴィジョン2020』には、このような一節があります(概略)。

“2020年までに、マレーシアは強いモラル感覚と道徳的価値観を持つ、自信にあふれたマレーシア人、公平さや思いやりを持ったマレーシア人社会による統一国家となり得る。……国際的経済競争力など、あらゆる分野に置いて先進国となることを目指す……(略)それはマレーシアが独立したその瞬間から立ち向かってきた挑戦を克服することなくして、統一国家はなしえない。その最初の挑戦は、われわれが運命共同体で共通性を持った統一国家となること。他の人種とのハーモニーをもたらすことが、平和な国とつながるのだ……。”

そして、先進国と言っても“われわれ自身の特性をもつ先進国”が目指す姿だということ。そこがポイントで、マレーシアの国家の存在意義を立ち返ると、“多様な人種の調和”が不可欠だという意味です。

2020年に向けて、変わり続けるマレーシア。多民族共存のその先にある“融合”までのストーリーを、子どもに語る親がでてくる日も、そう遠くないのかもしれません。

<参考>

・Vision 2020…http://www.wawasan2020.com/vision/

 

<写真協力>

・Shiran Alec…前夜の街中の写真

・neys fadzil…女性の顔の写真

・Thanwan Singh…祖父と子どもたちの写真

・Fuzuri Design…祝賀式典の写真

・Sham Hardy …祝賀式典(行進)の写真

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