マレーシアに住むムスリムの女性は、「ヒジャブ」と言う髪を隠すスカーフを身につけています。“美しいものは、大切だから隠さなければいけない”というイスラムの教えのためです。アラブ諸国と違い、マレーシアではムスリム女性ファッションのバリエーションが豊か。特にヒジャブは、カラフル・ユニークなもの取り入れて楽しむ“ヒジャビスタ”と言われる女性たちが、トレンドをリードしています。下記に、具体的に紹介します!
生活に不可欠なヒジャブから「自己表現」へ
マレーシアでは、ムスリム女性の生活に必要不可欠である“ヒジャブ”の価値観が、変化しつつあります。ヒジャブが“自己表現”のシンボルとなり、若い世代を中心に、一大ムーブメントが起きているのです。
ヒジャブを洋服やメイクとコーディネートして、自分で見せ方を決める、自分を一番美しく見せる巻き方を研究するなど、インターネットのマレーシアコミュニティ内では人気ブロガー“ヒジャビスタ(ヒジャブとファッショニスタをかけた造語)”たちによる情報が、あふれています。
筆者が以前住んでいたドバイや、隣国サウジアラビアでは、“アバヤ”という体の線が出ない黒い衣装と、黒く長いヒジャブにより、全身“漆黒”のコーディネートが主流でした。サウジアラビアに至っては、目も覆う装いもあります。そんな両国のような湾岸諸国の女性の装いと比べると、同じムスリムの国でもマレーシアは、すでに自己表現の幅が広い印象を持っていました。普通の服装にヒジャブのみを身につけている女性が、ほとんどだからです。それが、実際にマレーシアに住み始めると、女性達の意識が、より次の段階へと進んでいることを実感しました。受け身であった“隠すもの”という概念からコーディネートの核となり、“見せるもの”へと変化しているのです。
マレーシアのスター「ヒジャビスタ」!
実際に、マレーシアのファッション・トレンドを牽引するヒジャビスタは、どんな人たちでしょうか?当地で超有名な、スター“ヒジャビスタ”を紹介します!
フルタイムのブロガーで、ムスリム・ビーガン向けビューティー・プロダクトのブランド『Breena Beauty』のクリエイティブ・ディレクター兼、創業者の一人、そしてママでもある、Sabrina Tajudin(サブリナ・タジュディン)さん。インスタグラムでは10,000人を超えるフォロワーを持ち、彼女のメイクやライフスタイルについてのブログは、マレーシアのトップ10ヒジャビスタ・ブログと評されるほど、人気。
街で見かけるヒジャブは、色が鮮やかすぎてコーディネートで浮いているなど、洋服やメイクとのバランスが意外に難しいのかな、と個人的に思っていました。それが、サブリナさんのヒジャブ・スタイルは、洗練されています。ヒジャブを付けることで、顔周りがさらに華やかになり、スタイルアップすることにお気づきでしょうか。スタイルの一部に、ヒジャブが見事に溶け込んでいるためです。サブリナさんのスタイリングのコツを聞いてみたところ、このような答えが。
「私のスタイルのコツは、ダークカラーか、ニュートラルカラーのヒジャブを選ぶこと。それにより、メイクの時に色で遊べるから!逆に明るいカラフルなヒジャブの時は、メイクをニュートラル・シンプルにして足し算・引き算。ヒジャブの色と、口紅・アイシャドウの色を合わせることも。ヒジャブのコーディネートのコツは、つまり、ヒジャブの色とメイクの陰影の組み合わせを、いかに工夫するかなの!」
ヘアスタイルよりも、実はヒジャブの方が色、柄、形のバリエーションがありますよね。そのため、より計算を尽くした高度なおしゃれセンスが必要かもしれない、と想像しました。
メイク、ファッションだけでなく、日々のおしゃれな生活をソーシャルメディア・ブログで発信し続ける、サブリナさんのようなスター・ヒジャビスタの存在。マレーシアで、今身近で最も影響力がある、インフルエンサーと言えるでしょう。
「ものづくり」ヒジャビスタ女性起業家!
最後にご紹介するのが、『Dayang & You (ダヤン・アンド・ユー)』。これはヒジャブ・ファッションブランドの名前で、偶然見つけた新しいショップです。なぜ目に止まったのかと言うと、ヒジャブについて無知な筆者でも、店の前を通っただけで「このお店のヒジャブ、日頃街で見かけるものと全然違う!」と気づくほど、質感と発色の素晴らしさが際立っていたからです。
実際に『Dayang & You』ショップ・オーナーで、最高経営責任者のNadhirah (ナドヒラ)さんに取材し、色々話を聞いてみました。お店のアイテムはナドヒラさんのプロデュースによるもので、サテンシルクやシフォンシルクなど、布質と色に徹底的にこだわったそう。
高級感あるアイテムだけに、ターゲット層は、もちろん上流クラスの女性たち。上質なものを身につけることで、ムスリム女性に内面から自信を持って欲しいという思いのもと、2016年3月30日にこのブランドを立ち上げました。二児の母でもあるナドヒラさんですが、ブランド名の “Dayang”は、娘さんの名前にちなんでいます。
ナドヒラさんは、事業を始めるにあたって、昨年10月から市場調査を開始。候補の布は全て自分で試着し、ヒジャブのデザイン、生地選び、テイラーに製造元の選定からブランド・ロゴデザイン、商品写真撮影まで、全て自分でこなしました。家族の協力により、仕事と子育てを両立しながらオンラインショップをスタートするやいなや、口コミで噂が広がります。
結果、起業からわずか3ヶ月の今年6月には、クアラルンプール中心のショッピングモール『Avenue-K(
アヴェニューケイ)』のラマダン・マーケットで、初出店を果たすまでになりました。
もともとイギリスの大学で“広告デザイン”を学び、その後デジタル技術・コミュニケーション&教育“の領域で大学院も卒業した彼女は、もともと大学教授になる予定でした。しかし、イギリス在住時代に、現地で手に入る布のデザインや色の幅広さに触れ、後のヒジャブ・ブランドのインスピレーションとなりました。「欧米人はスカーフとして首や体に身につけ、ファッションとして使用しますが、私のようなムスリム女性は、それをヒジャブとして使用するのです。」
ヒジャブの最近の主流は、すでに形が出来上がっていて、頭にはめるだけのもの。例えばナドヒラさんの商品の中では、こちら。ラマダン明け祝い用の特別なデザインで、リボンの形がキュート!
でも、通常の商品は、実は“長い布のまま”です。布をぐるぐる巻いて、ブローチで留めるため、形を作るのに工夫が必要となります。「創造性を発揮して自分で巻く、そこがポイントなんです!」とナドヒラさん。長い布のままのヒジャブの方が、自分の顔にあう形となるように変化させ、美を表現できるためです。はめるだけのタイプは便利だけど、自分の見た目にこだわって、手間をかける良さを知って欲しい、美しいヒジャブは自己肯定感に結びつくから、とも言っていました。付け帯を使うより、手結びで帯を結ぶ方が、手間がかかるけど美しい、日本の着物の帯事情とちょっと似ていると感じました。
現在はオンラインショップを通しての商品販売ですが、将来的には、実店舗を持ち、工場生産やジュエリーとあわせた“トータルコーディネート”を提供して行きたいという目標があり、精力的に活動しています。
ものづくりにこだわる“ヒジャビスタ起業家”として、これからもムスリム女性たちをインスパイアし続けることでしょう。
今回は、マレーシアでムスリム女性ファッション・トレンドを牽引する2人のスター・ヒジャビスタについて、紹介しました!アイデンティティーの象徴であるヒジャブに新たなバリューをもたらす、ヒジャビスタ。マレーシアに来ることがあれば、是非このような美しいヒジャブの存在と、それをまとう女性たちの内面に、思いを馳せてみてくださいね。
- 取材協力:
- Sabrina Tajudin, Blogger, Creative Director & Co-Founder, Breena Beauty
ブログ:http://www.sabrinatajudin.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/sabrinatajudin/
- Wan Nur Nadhirah Wan Nasri, Owner & CEO, Dayang & You
オンラインショップ:http://dayangandyou.com/?route=common/home
インスタグラム:https://www.instagram.com/dayangandyou/
- Avenue K
ホームページ:www.avenuek.com.my
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