オランダの南部にあるドルドレヒトの街を初めて訪れる機会があったので、どこか素敵なミュージアムがないかと思って探してみると、「ドルドレヒトの至宝」と訪問者のレビューで讃えられる美術館がありました。それが、今回ご紹介するドルドレヒト美術館(Dordrechtsmuseum)です。訪問してみると、噂に違わない素晴らしいミュージアムでした。
地元住民のアートへの愛が結実して誕生
1842年にドルドレヒトの地元の5人の有力なアートコレクターが集まって、個人所有の「絵画のためのミュージアム」として、このドルドレヒト美術館のもととなるものを設立したのがこのドルドレヒト美術館の始まりだそうです。以後、みるみるうちにミュージアムのアイディアに賛同する人がメンバーとして加わってその数100名近くとなり、ドルドレヒト市からバター交換所として使われていた建物を展示スペースとして譲り受けてから、現在の姿になったのだそうです。ユトレヒトの市立美術館に続く、オランダ国内でも有数の歴史ある美術館となっています。
ドルドレヒトの鉄道駅から歩いて10分程度で、街の中心部に着きます。美術館のある通りは少し入り組んだ場所にあるので、地図を見ないと迷ってしまうので、お気を付け下さい。美術館通り(Museumstraat)という道を見つらけれたら、着いたも同然です。柵で囲まれた広々とした中庭のある建物がドルドレヒト美術館でした。
敷地に足を踏み入れると、中庭に面したカフェレストランがすぐ目に飛び込んできました。その右側にあるエントランスから、美術館へ入場できます。
ダンディなカウンターのスタッフからチケットを購入しました。大人12ユーロ、13歳から18歳は5ユーロで、それよりも小さい子どもは無料です。また、オランダのミュージアムカードが有効で、無料で入場できます。大きな荷物がある人は、エントランスから入ってすぐの階段の裏手にある鍵付きロッカーに荷物を預けてから鑑賞しましょう。
落ち着いた雰囲気の実力派絵画館
地上階右手から常設展がスタートします。全体として、絵画が時代と絵のモチーフやテーマごとにまとめて展示されていて、とても見やすくまとめられています。全てのキャプションに英語の説明がついているわけではありませんが、だいたいのテーマはオランダ語ができなくても分かるようになっていました。
最初の展示室には、「ドルドレヒトの夢」と題して、この町の17世紀の姿が描かれた作品が集められていました。そして、「新しい道」、「最高のオランダ」などテーマごとに絵画の列が続いていきます。展示室ごとに壁紙の色が違って、そのそれぞれが落ち着いた美しい色合いをしているところにも、ちょっとした変化を感じられて、絵画だけしか展示されていないのに決して飽きることなく鑑賞を楽しめるポイントだと思いました。
また、各展示室の中央には、白や黒のモダンなデザインの箱のようなものが置かれていました。何かと思って不思議に見ていたら、館内スタッフが「ドロワーを開けてみてもいいんですよ」と教えてくれました。実際に引き出しを開けてみると、中には手のひらサイズの小さな水彩画やラフスケッチ、デッサンなどの作品がひとつずつ収められていました。こんなふうに展示すれば、小さい作品であっても、壁にかかっている場合よりもずっと間近で快適に見ることができるんですね。一つひとつドロワーを引く作業も、次にどんな作品に出会えるかわからないからか、ワクワクします。
展示の工夫が満載
また、絵画館らしく、落ち着いた雰囲気のインテリアも魅力的でした。展示室の各所に、高級感あふれるベルベットや革のソファーが用意されていて、気軽に腰かけてのんびりくつろぐことができます。一人掛けのソファーも見かけました。気に入った絵画の前に座ってしばらくゆっくりするなんて、大人な過ごし方をしている鑑賞者もいて、その贅沢な時間の使い方になんだか羨ましくなってしまいました。
特別展に関しては、無料の音声ガイドを受け取ることができます。オーディオだけではなく、小さな電子ノートパッドのような機械で、関連するイメージも合わせて楽しむことができます。残念ながらオランダ語のみの解説なのですが、電子パッドに表示される古い書籍のようなデザインのイメージが斬新なので、ぜひ手に取ってみてほしいものです。エントランスの階段の下にいるボランティアスタッフに声をかけると、丁寧に説明してレンタルさせてもらえます。
常設展の中では、アリ・シェフェールという画家の作品がとても印象に残りました。ショパンやディケンズなどの肖像画を手がけたので、それらの作品を見たことがあるという方はいらっしゃるかもしれませんが、画家としては日本ではほとんど知られていません。フランス人ですがこの町ドルドレヒト生まれであるため、同美術館にはシェフェールのコレクションが多数揃えられており、小さな展示室の一角が彼の作品で埋め尽くされています。「天上の愛と地上の愛」を偶像として描いた大判の作品や、「ミニョン」と題された少女のアンニュイな表情を拾った作品などが、独特の魅力を放っていました。
リアルな静物画のオンパレード
「トロンプ・ルイユ」の類もまとめて展示されていました。本物と見紛うような、リアルで精密な描写が素晴らしい静物画には思わず息をのみました。絵画は勿論、絵の中に書かれている題材のようなオウムガイのような巻き貝や古書などの実物も展示室内にそっと置かれています。その展示室の天井には、大きな鳥たちの絵画が展示されていて、さらにびっくり! 学芸員さんたちの遊び心が感じられます。
驚きのある特別展
特別展「ヨンキンドとその友人たち(Jongkind&vrienden)」の展示も素晴らしかったです。まったく事前知識なしに鑑賞しましたが、その風景がの色合いの多彩さ、そしてオランダの風景をここまで美しく情緒的に描くことができるなんて……と目からうろこが落ちるような思いでした。油絵の絵の具が照明を反射してキラキラと輝く様子が、絵の中の水面の光を再現しているように見えて、とても効果的でした。キャプション文は残念ながらオランダ語のみでしたので、詳しく理解するのは難しかったです。
さらに、展示中には、モネ、スーラ、ピサロ、ポール・シニャックなどのオランダの風景がずらりとならぶ一角もありました。これだけの有名画家によるオランダ風景画を並べて鑑賞できる機会はめったにないので、感動を覚えました。
おしゃれなカフェレストランにも注目
さて、鑑賞後に見逃せないのが、美術館のカフェレストランです。ワインバーの専用スペースまで用意されていて、とても気が利いたスペースになっています。インテリアもすっきりとしていておしゃれで、壁にはさりげなく美術館のコレクションの一部である絵画が架かっています。
また、ミュージアムショップにも、同美術館の目玉作品をプリントした文具などの定番アイテムはもちろん、ちょっと高価で珍しいオランダ土産になりそうなアクセサリーや陶器などのインテリアグッズも取り扱われていました。
ドルドレヒト美術館は、西洋絵画好きには絶対におすすめしたいアートスポットです。
インフォメーション
名称:ドルドレヒト美術館(Dordrechtsmuseum)
住所:Museumstraat 40, 3311 XP Dordrecht
開館時間:火曜から日曜 11:00~17:00
公式ウェブサイト:https://www.dordrechtsmuseum.nl
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