アムステルダムの中心といえばダム広場と王宮ですが、そのすぐ脇で、さりげなく街の歴史を見守りつづけてきた美しい教会があります。それが、このアムステルダム新教会(De Nieuwe Kerk Amsterdam)です。エル・グレコの絵画を特別に展示していると聞いて、会期中に新教会を訪れてみました。
街の中心部に建つ歴史ある教会
アムステルダム中央駅から新教会まで、歩いても10分程度で到着します。ダム広場周辺は道路が細かい石畳で歩きづらいので、重い荷物を持っていたり歩くのが苦手な方には、中央駅から1,2,5,13,17番いずかのトラムに乗車して「Dam」という停留所で降車するれば、新教会の目の前に到着できます。
新教会の入場チケットは、大人が8ユーロ、11歳以下の子どもは入場無料。ミュージアムカードがあれば無料で、Iamsterdamカードなど各種の割引も適用されます。
1408年、つまり今から200年以上前に建設されたこの教会は、アムステルダムの街の中でも長い歴史を誇る建築物のひとつです。当初はカトリック信仰の教会でしたが、1578年にプロテスタントの教会に変わり、難民や貧しい人を保護するなどの社会的な役割を担いました。1645年に火災に遭ったため、現在は主に17世紀の芸術作品を擁しています。チャペルや2つのパイプオルガンが美しく、歴史に名を遺した航海士や戦士なども埋葬されています。
時代の流れで役割を変える教会
長い修復・修理の末、新教会は1980年に文化的・社会的意義のあるイベントの会場として再オープンしました。17世紀の内装を維持しながら、オランダ王国の公式行事や文化系の催しや集会、レクチャー、コンサートなどが定期的に行われるイベント会場として、幅広い用途で活用されています。長い歴史の中で、時代の流れに沿ってさまざまに役割を変化させてきた教会だといえます。
祭事がない期間には、写真展や絵画展などの展覧会が行われています。その展示の内容によって、教会内の公開されている場所や展示のスタイルが大きく異なるのだそうです。
現在は、ジャンルの異なる芸術史上の傑作・名作と呼ばれる作品を紹介するシリーズを行っています。その第6弾が今回のエル・グレコ展。その特別展の様子とこの新教会の見どころを合わせてお伝えします。
さまざまな顔を見せるイベント会場としての教会
教会の中に入ると、まずステンドグラスが目に飛び込んできます。特に天気の良い日にはカラフルに輝いて、ひときわ目を引く存在です。古いものは17世紀中ごろ、新しいものは20世紀に入ってから窓に組み込まれたものがあるそうです。
この教会は、オランダ王室のセレモニーやイベントにも使用されていますが、一般公開されているときは独自の企画による展覧会が開かれています。筆者が訪れたときには、画家エル・グレコによって描かれた祭壇画の一部がプラド美術館から貸し出され、教会の聖堂の中の内陣に展示されていました。一点豪華主義の展示なので、時間を割いてじっくりと鑑賞しました。
絵画の展示スペースを囲む内陣の柵にもご注目ください。画家レンブラントなどと同じオランダ黄金時代の金工たちによって制作された柵に囲まれているんです。とても華やかな雰囲気です。
その内側には、スペインの宗教音楽やフラメンコギターが流れていて、エル・グレコの作品が展示されていました。
今回の作品は、キリストの生涯を描いた大きな作品の一部で、新約聖書の中に出てくる「ペンテコステ」という聖霊降臨のエピソードを等身大サイズで描いたもの。新教会では、オリジナルの祭壇画ではどの部分になるのかが分かるように、原画に加えてその他の部分の絵がプリントされた布が全体像を補うようにして展示されていました。エル・グレコ独特の色彩感と筆遣いが間近で鑑賞できて、とても迫力がありました。
新教会はプロテスタントの教会なので、偶像崇拝が禁じられていて、装飾が省かれたすっきりとした内装です。それなのに、今回の特別展では、エル・グレコのマリアを描いた宗教画がまるでカトリックの教会のように、内陣の一番奥に展示されているという点が面白いなと思いました。
また、展示についての解説や、画家の生涯についての説明が充実しているので、気づけば1時間ほど楽しんでいました。
約5005本のパイプを持つパイプオルガンも見どころのひとつです。教会内は少し暗くて鑑賞しづらいのですが、オルガンを包む収納カバーには、人々が表情豊かに描かれていました。
最新の現代アートも展示
教会の一角には、一室ずつ区切られている小さなチャペルが11か所あります。今回、そのうちの1か所「Masons Chapel」は、現代アートの映像作品を展示するために使われていました。「Van Lanschot Art Prize」という賞を2016年に獲ったビデオ作品で、内容は、スマートフォンに釘付けになっている大人たちに囲まれながら、バスやメトロなどの公共交通に揺られて、複雑な表情を浮かべる少年を撮ったもの。社会の行く末を考えさせるような作品です。15世紀の教会の中で、現代アートに触れることができるなんて、とても新鮮な体験でした。
ちなみに、この教会では、特別展ごとにそれに関連するコンサートなどのイベントを行っています。今回はスペインの画家エル・グレコにちなんで、「El Greco de Toledo」というフラメンコ・オペラの音楽をフラメンコギターや歌手、ダンサーによるコンサートが開かれたそうです。その他、レクチャーイベントもおこなれていますが、こちらは残念ながらオランダ語のみだそうです。
魅力的な品揃えのミュージアムショップ
ミュージアムショップには、現在開催されている展覧会の関連書籍のほか、アムステルダムの観光ガイドブックや、有名な絵画作品がプリントされた各種グッズやチューリップの絵柄のグッズ、マグネットなどの可愛い雑貨やノートなどの文房具などが数多く取り揃えられていました。センスがいいお土産探しにぴったりの穴場です。
筆者は、マグネット(3.5ユーロ)、そして新教会について英語で説明が書かれている小冊子(2.5ユーロ)を購入しました。ギフト用にとは頼んでいないのに、店員さんは銀色の星のシールがついた可愛いラッピングで丁寧に1つずつ包んでくれました。
教会のチケットカウンター脇にはカフェもあるのですが、こちらも穴場であまり知られていないので、ダム広場周辺でちょっと休憩したいときに便利です。カフェとショップにはチケットを買わなくても入場できます。
アムステルダム中心部で歴史を感じながら、多彩なアートを鑑賞できる新教会。その時々で変化する展覧会の内容をチェックして、ぜひ訪れてみてくださいね。
(インフォメーション)
名称:新教会(De Nieuwe Kerk)
住所:Gravenstraat17, 1012 NL Amsterdam
開館時間:展覧会開催中は毎日10:00~17:00
公式ウェブサイト:https://www.nieuwekerk.nl/en/
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