ドイツの教育:10歳で決まる学校システムはもはや過去?

ドイツ

10歳で将来が決まる学校システム

他の記事でも書きましたが、ドイツの学校システムは様々で尚且つドイツ全土16州によって異なるため、とても一言で説明できるものではありません。一般的に「小学校は4年生までで、その後は3つの学校に分かれる」と言われます。下図にあるように、小学校4年生を境に学校が主に三つに分かれ、ハウプトシューレ(基幹学校と訳されます)、実科学校ギムナジウムのいずれに進むかに分かれます。

成績、能力、適性で分けられてしまう

あまり公には言われていませんが、この3つの学校は実質的には成績、能力や適性で決められいると思われます。大学まで進学できるギムナジウムには成績が良い子どもが集まり、次に成績が良い子ども達は専門学校まで進める実科学校に進み、その次が基幹学校となっています。
現在ではこの3つの学校形態を包含した総合制学校もあります。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/015/siryo/attach/1374965.htm

(引用先:文科省)
要するに、大学に進学できるかどうかが10歳で決まってしまうシステムなのです。進学できないと言われた親や子どもにとっては、このシステムはあんまりだとは思いませんか?さらに驚かされるのが、この決定をするのは担任の先生であるという点です。

3つの学校の概要

この3つの学校ですが、システムは次々に変貌を遂げており、現在はずいぶんと違った形になっています。ただしドイツの学校システムを理解するには伝統的な制度を把握する必要があると思いますので、ここで簡単に説明します。

基礎学校(Grundschule)とはいわゆる小学校です。この小学校を4年生まで終えた時点で次のように分かれます

1. ギムナジウム(日本の中学・高等学校に相当)→ この学校の卒業資格(アビトゥーア)が大学入学のための資格試験となる。小学校4年生を終えた時点での10歳(あるいは11歳)から8年間(一部の地域では9年間)の間、高等教育を学ぶ。

http://www.urbanophil.net/wp-content/uploads/2013/12/IMG_6216.jpg

2. 実科学校(卒業後に職業訓練学校に進学を希望する人、あるいは秘書などの中級の職につく人が進学する)

3. 基幹学校(5年制の学校で卒業後は職業訓練を受ける人が大半。ドイツのマイスター制度を原型にこのシステムが作られたとされる)

進路の決定は先生の手中に 推薦とは言え、実質的に決定しているのは先生

授業をきちんと聞いていられる子には小学校の1、2年生の授業は退屈と思えるくらい、進み方がゆったりとしているドイツの小学校。ところが3年生になるとぐんと難易度が上がります。4年生の前半にはその後の進路が大体決まります

その主な基準となるのが、3年生の終わりと4年生の前半の成績だと言われています。個人面談で先生が「おたくのお子さんは〇〇の学校が合っていると思われます」と伝えられるのです。

先生の推薦はどれくらい正当なのか?

先生の推薦が自分の希望にかなっていなければ、もちろん自分たちの希望を伝えることはできます。現に実科学校を推薦されたのに親がどうしてもギムナジウムを希望し、ギムナジウムに進学したお子さんもいます。しかし入学先が勉強の難易度が高く、ついていけなくなったため、結局実科学校に変えたというケースもあります。小学校の先生の見る目は確かだったと言えます。

一方で移民系の家庭で育ち、ドイツ語がドイツ人の子どもより劣るためだけにレベルの低い学校に入れさせられてしまった、という話も聞きます。実際に、実科学校や基幹学校に通っているのは移民系の子ども達が圧倒的に多いのです。
「移民の子は勉強ができない」という先入観で先生から不当な扱いを受けて、低い学校に入れさせられてしまうというケースもあるのかもしれません。

詰め込み教育NGのドイツ式の勉強が背景に

日本でもしこのようなシステムが導入されたら、どんな反応が起きるでしょう?
基幹学校への進学を薦められたら、猛反発する親が続出するのではないでしょうか。または10歳の進路決定を前に猛勉強をしたり、そのためのコースを設けた塾などが次々と新しいビジネスを展開しそうですね。

一部、先生の推薦に反発する人がいるものの、ドイツでは大半の人がこの実態を受け入れていると思われます。その背景には「詰め込み式教育はNG」の考え方があるようです。

https://www.t-online.de/leben/familie/schulkind-und-jugendliche/id_55214232/keine-empfehlung-fuers-gymnasium-so-gehen-eltern-damit-um.html

暗記や詰め込みでは太刀打ちできないギムナジウム

ギムナジウムは高等専門教育を受けますが、詰め込み教育で太刀打ちできる内容ではありません。例えば歴史の勉強の場合、年号を暗記するよりも「〇〇の出来事がその後の〇〇にどんな影響を与えたか?」と言った背景の説明が求められます
大学に進学するとなると実践教育よりも高レベルの理論、抽象性の高い理論を理解する必要が出てきます。また大学の単位を取るのは容易ではありません。そのため、例え大学に入学しても卒業するのは難しいのです。

職業訓練学校はハード

一方で実科学校や基幹学校に進学したら楽なのか?と思われがちですが、必ずしもそういうわけではありません。

実科学校からギムナジウムに学校を変えた人たちに聞くと、勉強の内容自体は確かに実科学校は簡単だそうです。
しかし卒業後の職業訓練学校はかなりハードで、理論と実践の両方を勉強する事が求められます。一般にデュアルシステム(二元性)と呼ばれますが、通っている人たちに聞くととても大変そうです。

例えば介護福祉士の資格を取った知り合いは、週40時間実践を積む一方で理論の勉強もするという生活を3年近く送っていたと思います。空いた時間はひたすら勉強、勉強、勉強をして最終試験に合格したそうです。

基幹学校の卒業生が進む職業訓練はマイスター制度

一般的には3つの学校のうちで一番レベルが低いと言われている基幹学校ですが、その後の進路は厳しくかつ華々しいものだと私は考えています。卒業生の多くはマイスター制度をめざす職業学校に入って勉強しますが、卒業資格であるマイスターは国家試験なのです。
具体的には理髪店、パン屋、大工、金細工、花屋などです。

最近、マイスター制度が一部緩和されて資格が無くても独立開業できるようになった分野もありますが、質の低下などから「規制緩和をなくすべき」といった声も出ています。
実科学校にしても、基幹学校にしても、その後の進路を考えるとどちらも詰め込み方式では合格レベルには到達できないのです。

自分の適性、能力に合った進路に進むのがベスト

これまでの事をまとめると、どんな学校に進むにしても詰め込みで学ぶことはドイツの勉強の質として適していないという事になります。

詰め込みは表面的なことを一時的に頭に入れることですが、ドイツでは本質的な事を理解することが求められます。
抽象的な理論を理解する事が得意でも、実践が苦手という人はいるでしょう。一方でその逆も然りです。中世の時代から続くマイスター制度は今の技術大国、ドイツを作り出したといえます。

どの方向に進むべきかは、本人の希望だけではなく適性も重視されるのです。いくら本人が努力しても適性や能力がなかったら、他の人よりも不利となってしまいます。つまりドイツでは「個々の適性や能力にかなった進路に進むべき」と考えている人が多いのです。

とは言え、その能力や適性はわずか10歳でも現れるものなのでしょうか?そしてそれを担任の教師が見抜けるものなのでしょうか?
疑問は残るものの、これがドイツ式の勉強法なのです。

現在は3つの学校システムが大きく変わりつつある

「10歳で進路が決まる学校システム」ですが、ここ20年弱ほどで、大きく変わって来ています。主には次のような傾向になっています。

学校システムは連邦州の独自の特色が強くなってきており、ドイツ全土で統一の制度を説明するのが困難になった。
10歳で進学が決まる制度は教育・社会格差を広げてしまうため、これを緩める州が多くなっている。(例)ベルリンでは小学校は6年生までとなった但し一部のギムナジウムでは5年生から入学できるので、小学校を4年生で卒業する人とそうでない人に分かれている。
基幹学校という名称を残した学校はドイツ全土でほとんど無くなってきている。例えばベルリンでは実科学校と基幹学校を合体させた「integrierte Sekundärschule」という名前になっている。
実科学校で一年長く勉強して卒業する場合は卒業資格がギムナジウムと同様のアビトゥーアになった。そのため合格すれば大学進学の資格が得られるようになった。
全体的にアビトゥーアを取得する人が増え、大学への進学率が高くなった。
一方で職業訓練学校に進学する人が減り、専門職の人手不足が社会問題となっている。

3つの学校システムとは結局のところ、勝ち組と負け組だった

この学校システムですが、10歳で進学先が分かれた後に別の学校の人たちと交流する機会はまったく無いそうです。以前に大学で知り合ったドイツ人に聞いた時、「徴兵制で一年間軍隊にいた時以外は、他の学校の人たちと話す機会は全くない」との回答でした。

また南ドイツを旅行した時に電車で乗り合わせた若者たちと話した時に、何気なく「今は大学生?」と聞いてしまったのですが、「ううん。アンラッキーなことに僕たちは大学には行けない組だからね」と答えたのです。それまで明るくジョークを飛ばしていたのに、それを言った時の寂しそうな表情が忘れられません。
その時にドイツの学校システムには歪みがあるのだなと思ったものです。

確かに適性や能力に沿った学校システムは、個々の才能を伸ばすという意味で効率性はあるのかもしれません。
でも、そこには子どもらしい「夢」が欠けているように思えるのです。

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