ロンドンから行くワイナリー:ハッシュヒースで過ごす極上の一日

イギリス

なだらかな丘に広がるぶどう畑の写真を見ると、自ずとフランスやイタリアを連想してしまいますが、実はイギリスにもビンヤードやワイナリーがあるのをご存知ですか?

今回はロンドンのお隣の州で「イギリスの庭」(The Garden of England)とも称される風光明媚なケント州にあるワイナリー、ハッシュヒースをご紹介します。

シャンペンにも勝るとも劣らぬ?イギリスワインの実力

たとえイギリスに住んでいても、イギリス産ワインを飲んだ事のある方は少ないと思いますが、実は近年、イギリス産ワインはじわじわとその評価をアップしています

特に白のスパークリングワインは、本場フランスはシャンパーニュ地方でのみ醸造されるシャンパンに勝るとも劣らないとワイン通を唸らせています。

ワインエキスパートのオズ・クラークによると、イギリスのスパークリングワインは「頑固なフランス人も美味しいと認め、ニューヨークでは次世代の最もクールなワインとされている」のだそうです。

但しイギリスのワイナリーは生産規模が小さいため、市場に出回る数が少なく、品質の割にあまり知られていないのが実情なのです。

かつてのマナーハウスの荘園がビンヤードに

ハッシュヒース(Hush Heath)1503年築のチューダー時代のマナーハウスとその荘園でした。

1980年代にリチャード・バルフォーさんがファミリーホームとして購入した時はかなり傷んでおり、しばらくは館の改築に時間を費やしたそうです。

その後、ほんの趣味として始めたワイン造りにのめり込み、2010年には近代的なワイナリーを建造。本格的なイギリスワインメーカーとして歩み始めました。

ハッシュヒースの豊かな自然を堪能するツアー

ハッシュヒースでは、ビンヤードとワイナリーを見学するツアーが数種ありますが、今回は「ビンヤードとワイナリー見学と解説付きワインテイスティング」(Full Estate and Winery & Tutored Tasting Tour)に参加します。

ラッキーな事に、引率してくれるのはワイナリーのオーナーであるリチャードさん。ツアーは丘の麓にあるワイナリーの建物から出発です。

ワイナリーの向かいには、一面の菜の花畑が広がっていました。その向こうにある森を散策し、果樹園を通り抜けると、なだらかな丘にビンヤードが広がっています。

丘から見渡す限りのこれらの土地がハッシュヒースの所有で、その大きさは47エーカー、およそ東京ドーム50個分と言うのですから驚きです。

 

健康なぶどうの実から造られたワインは必ず美味しくなる

生垣で囲う事によって適切な温度を維持しているというリチャードさんの説明通り、ビンヤードに入ったら気温が数度上昇したようで、途端に汗ばんで上着を脱ぎました。ぶどうの木には薄紅色の花が沢山咲いています。

「ここではできるだけ自然のままにぶどうを育てています。だから、こんな風に雑草だらけでテントウムシが居たりするんですよ。」そう言ってリチャードさんは目の前に居たテントウムシを愛おしそうに眺め、こう続けました。「健康なぶどうの実から造られたワインは必ず美味しくなる。自分はそう信じています。」

 

日本の美味しいお米との共通点

そのお話を聞いて思い出したのが、日本で一番美味しいと言われる米を作っている方のインタビューです。

農薬を使わず、昔からのやり方で米を作れば、特別な事はしなく ても丈夫で美味しいお米が出来るのだとおっしゃっていました。農薬を使わない水田の中では、いろんな生物が共生する小宇宙が形成され、微生物や昆虫が稲を病害や虫害から守り、 稲は逞しく成長するのだそうです。

洋の東西の差はあれど、自然の摂理にまかせた健康な植物の実りは美味しくなるという信条は同じですね。

 

人々の手で慈しまれて育つぶどう

広大なブドウ畑では、スタッフが不要に伸びた枝を一本一本手で取り除く作業中です。

彼らはビンヤード周辺に点在する建物に住んでいるのだそう。ケント州名物の、かつてはホップの乾燥貯蔵庫として作られホップ・キルンやオーストハウスと呼ばれるユニークな形の屋根のある建物も、スタッフ用の住宅です。

各住宅にはアラームが取り付けられており、深夜や早朝に気温が下がり過ぎるとアラームが鳴って、駆け付けたスタッフ達 が夜を徹して地面に蝋燭を灯し、霜からブドウの木を守るのだそうです。

ぶどうの手入れや収穫など、全工程を手作業で行っており、それらのぶどうは正に手塩にかけて磨きぬいた宝石と言えるのかもしれません。

 

おとぎ話の舞台のようなマナーハウスと最新鋭のワイナリー

この日は特別に、リチャードさんご一家の住むマナーハウスの近くまで見せて頂きました。

藤の花の季節で、蔦の絡まる中世のマナーハウスはおとぎ話の舞台のように美しいですね。実はリチャードさんの奥様は子供の頃日本に住んでいたことがあり、大の親日家なのだそうです。

丘を下ってワイナリーに戻り、内部を見学します。最新鋭の機材が据えられたワイナリーは塵一つなく清潔で、まるで何かの実験室のよう。ステンレススチールの醸造樽は、シャンパーニュ地方で特注したものだそうです。ハッシュヒースの発砲ワインは、シャンペンと全く同じ手法で時間をかけて造られます。丁度、これから日本に出荷されるワインを梱包している最中でした。

 

美味しいワインを飲み比べる至福の時間

いよいよお待ちかねのワイン・テイスティングの時間。6種類のワインと果樹園のりんごから造られたりんご酒を飲み比べます。

それぞれのワインの特徴や使われているぶどうの種類の説明の他、ご家族の名前を冠したワインとサイダーについては、ご家族にまつわるお話なども交えながら、和やかな雰囲気でテイスティングが進みます。

いずれのワインも高品質で、それぞれ独特の風味を持っています。良く晴れた麗らかな日に、緑に囲まれた屋外のテーブルでのワインテイスティングは、ワイン好きにとっては至福のひと時。そんな贅沢な時間を過ごして、2時間半に亘るツアーは終了しました。

 

イギリスを代表するロゼスパークリングワイン

ハッシュヒースを代表するワインが、ロゼのシャンペン風発泡ワイン 「Balfour Brut Rose」。

淡いバラ色の発泡酒はきりりと辛口で、思わず唸ってしまう美味しさ。シャンパンと同じぶどう種であるピノノワ、シャドネ、ムニエを、全く同じ配合比率で使っているのだそう。英国航空のファーストクラスで提供される他、ロンドンオリンピックの際のレセプションでもこのワインが使われたなど、正にイギリスを代表するプレステージなワインと言えます。

決してお手頃とは言えない価格ですが、リチャードさんは「シャンパンは特別な日に飲むもの。だからこそ、価格を下げる為に品質を犠牲にしたくなかった」と言います。確かに、特別な日を更に特別にするワインです。

 

ハッシュヒースでパブランチ

ワインテイスティングの後は、ハッシュヒースのパブでランチを頂きます。

ハッシュヒースは2つのパブを所有していますが、そのうちの一つThe Goudhurst Innを訪れました。

ハッシュヒースのワインはもちろん、それらを使ったサングリアや地元のクラフトビールなどが揃っており、センスの良い広々とした空間で、薄い生地の本格派ピザや伝統的なパブ料理が頂けます。

リチャードさんの妥協を許さない姿勢は、このパブでも感じることができました。

 

ハッシュヒースのツアーご案内

①自由見学と3種のワインテイスティング(無料)

ワイナリーから各自で見学コースに沿ってビンヤードを見学。3種類のテイスティング付き。5ポンドで更に3種のテイスティング。

②ガイド付き見学と6種のワインテイスティング(25ポンド)

スタッフによる解説付きビンヤードとワイナリー見学。その後6種のテイスティング。

③ハッシュヒースの全てを体験するコース(The Full Hush Heath Experience/50ポンド)

上記②に加えてハッシュヒースの所有するパブで3コースの食事とそれぞれに合うワイン付き。

④ワイナリー見学と4種のワインテイスティング(15ポンド)

(内容と価格は2017年10月現在)

※長靴のご持参をお勧めします。詳細はこちらをご参照ください。

Wine Tasting Tours & Vineyard Visits | Hush Heath Estate

301 Moved Permanently

 

ハッシュヒースの詳細情報

Hush Heath Winery

Five Oak Lane, Staplehurst, Kent TN12 0HT

Tel: 01622 832 794

Email: info@hushheath.com

Website: http://hushheath.com

・車の場合はロンドンからドーバー方面を目指します。M25からA21に入り、A262からB2079を通るルートの道が広く分かりやすいでしょう。

・列車の最寄り駅はMardenで、Charring Cross (約一時間)、Waterloo East(約50分)、London Bridge(約40分)からRamsgate行きに乗車。駅からはタクシーで7分です。

 

終わりに

緑豊かなケント州は、ロンドンのお隣とは思えない田園的雰囲気に包まれています。

ここからドーバー海峡を渡れば、そこはもうフランスですから、この地のワインが美味しいのは理にかなった話ですね。

美しい自然と美味しいワインを堪能できるハッシュヒースで、イギリスならではの極上の一日を過ごしてみてはいかがでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました