イギリスの地方の街はそれぞれに個性があり、イギリス国内旅行の一番の思い出が滞在した街だという事はよくありますよね。
なかなか国内旅行に時間を取れない皆様は、ロンドン中心部から30分未満で到着するキングストン・アポン・テムズを訪れてみませんか?
その名の通りテムズ川沿いに佇むこの街は、英国の長い歴史を秘める一方、マーケットタウンの華やかさと郊外の長閑な魅力に溢れ、さながら国内旅行をした気分を楽しめます。
歴代サクソン王が戴冠を受けた街
キングストンという名前は「国王の館」を意味し、イングランドを初めて統一したサクソン王エグバートに由来しています。
その後ノルマン人に征服されるまでの間、歴代のサクソン王がこの街で戴冠を受ける事になります。
その儀式の際に王が座っていたと伝えられる石は、現在のギルドホールの前に設置されており、七角形の台座のそれぞれの辺にサクソン王の名前が読み取れます。今はその威厳を感じる事はできませんが、近い将来、硬質ガラス張りの立派な展示場に移設されるとのことです。
また、テムズ川の向かい側にはヘンリー8世の愛したハンプトン・コートがあり、昔から王族にゆかりのある街となっています。
ロンドンでテムズ川を渡る唯一の橋
橋梁技術の発達により1729年にフラムに橋が架けられるまで、キングストン橋はロンドンで唯一のテムズ川に架かる橋でした。
1066年頃から存在し、当時は河川が運送の中心であったことから荷上場として賑わったそうです。
12世紀当時の橋は、河畔にあるジョン・ルイスというデパートの地下に、近くにあった中世のパブ「薔薇と王冠亭」の地下倉庫と共に保存されています。ガラス張りで外から覗くことができるようになっているので、河畔を散策する際にぜひお立ち寄りください。
例年9月のオープンヘリテージ・デーには中に入って見学することもできます。
マーケットタウンとして発展した街
ロンドンへ向けた農産物や工芸品が荷揚げされるキングストンは、マーケットタウンとして重要な街でした。
800年の歴史を誇るアンシェント・マーケットは、今でも街の中心で、主に世界各国の食べ物を売る出店がお目当の人々で賑わいます。
マーケットプレイスの中心の建物は1840年に建築されたかつてのタウンホールで、華やかなイタリア風のデザイン。黄金色に輝くアン王女の像は、今でもマーケットを見下ろしています。
活気のあるマーケットをぶらぶら見て回り、気に入った出店でテイクアウトして、中央の座席エリアでお手軽ランチを楽しみませんか?
キングストン・アンシェント・マーケット
https://www.inkingston.co.uk/marketsMarket Place, Kingston upon Thames KT1 1JS
毎日10.00~17.00
中世の面影を残すマーケット周辺の街並み
マーケットの周辺は中世からの細い道が入り組んで伸びており、「ロンドン郊外で最も中世の道路パターンが保存されている街」と評価されています。
例えば今は歩道となっているこの道は、中世にはロンドンと港町ポーツマスをつなぐ主要道路でした。
中世の細い道を辿って歩くうちに突然別の場所に出てしまうのは、キングストンならではの楽しい驚き。
中世当時のマーケットの周囲は、酒場と宿泊施設を兼ねたパブにぐるりと囲まれおり、夜遅くまで喧騒が絶えなかったそうで、そんな当時の様子を想像しながら歩くのも楽しいですね。
文豪も訪れた歴史あるパブ
キングストンに現存するパブで最も古いのは、マーケットプレイス38番地にある「祭司の頭亭」(The Druid’s Head)で、17世紀の創設です。
右側は「白鳥亭」という16世紀のパブでしたが、現在は「祭司の頭亭」の一部となっています。どちらも馬車用のゲートが残っていますね。
「祭司の頭亭」はユーモア小説「ボートの三人男」で有名なジェローム・K・ジェロームのお気に入りだったそうで、自筆原稿が店内に展示されています。因みにこの小説は、キングストンからオックスフォードへボートで旅をする三人組を描いたものです。
また、マーケットを挟んだ反対側の29番地はかつて「船亭」のあった建物で、こちらはチャールズ・ディケンズがよく出没していたそうです。
サクソン王も祈りを捧げた教会
マーケットの北側の建物の間に、王冠を戴いた鉄のゲートがあります。その奥に見えるのがオールセインツ教会です。
14〰15世紀の建物ですが、この場所にはサクソン時代から教会があり、サクソン王の戴冠式はこの教会で行われていました。
賑やかなマーケットから数歩入っただけなのに、厳かな静けさに包まれています。キングストンの喧騒に疲れたら、この教会の美しいステンドグラスを眺めながら一息ついてはいかがでしょう?
マーケットプレイスを囲む美しい建物
マーケットプレイスで最も目を引くのは、15番地にそびえるチューダー風の華麗な建物でしょう。
実はビクトリア時代の建造で、マーケット周辺では新しい部類の建物です。周辺のチューダー時代の建物と調和するようにデザインされ、サクソン王やエリザベス1世など10体の彫像で飾られています。
お隣は1570年築の本物のチューダー建造物。
この家の3階でイギリスで最も古い17世紀の壁紙が発見され、現在はビクトリア&アルバート博物館に展示されています。27番地は17世紀初頭にパブ「女王の頭亭」として建てられた建物です。
アップルマーケットで一休み
マーケットプレイスから一本東側の路地はアップルマーケットと呼ばれ、キングストンでも最も古い時代の建物が集まっています。
1530年建築当時は「馬鍬亭」という名のパブであったこの建物は、現在でも2階に当時の梁や横梁が保存されています。
建築基準法などない時代ですから、好き勝手に建物が建てられ、中には衝突寸前な場所も。でも、この建物で火事があった時、住人は窓から隣の建物に梯子を渡して避難できたという逸話も残っていますから、近すぎるのもあながち悪いだけではなかったようです。
ここはベーカリーやカフェの多い路地で、道にテーブルと椅子が設置されており、ちょっと休憩するには最適の場所です。
マーケットからテムズ川へ
マーケットの西側からは、ものの30秒でテムズ河畔へ出ることができます。
いくつかの横道がありますが、テムズストリート1番地の建物の横から出てみてください。現在は使われていない建物なので寂しい外観ですが、1570年の建築で1500年以前の部分も残っているという、キングストンの中でも最も古い建物です。
左手の小道に入ると、チューダー時代初期の窓を見ることができます。この小道を抜けると、目の前はもうテムズ川です。
テムズ川を満喫する
キングストンのテムズ河畔は遊歩道が整備され、お洒落なパブやカフェが軒を連ねています。
天気の良い日は、遊歩道をのんびり散歩するカップルや白鳥に餌をあげる家族連れなどで大いに賑わいます。
カフェの椅子に座って、行きかう遊覧船や川向のハンプトンコートの庭の緑を眺めるのもキングストンの楽しみ方の一つです。
ロンドンに現存する一番古い橋
ロンドンに橋は数あれど、現存する一番古い橋はここキングストンにあることをご存知ですか?
テムズ川の支流ホグスミル川がテムズに流れ込む直前にあるクラッターン橋で、1293年に建造されました。
日本語に訳すと「ガタガタ橋」という橋の名前は、橋を行き交う馬の蹄の音に由来しているそうです。何と今でも現役で、馬車に代わってロンドン名物の赤い二階建てバスがその上を通ってもビクともしない堅牢さを見せつけています。
目抜き通りでショッピング三昧
キングストンで一番賑やかな通りのクラレンス・ストリートは歩行者天国となっており、小さいお子さん連れでも安心してショッピングが楽しめます。
音楽を演奏するストリートパフォーマーや子供用の乗り物もあり、毎日がお祭りのよう。
大規模なショッピングセンターと百貨店の他、多くの小売店が道の両脇を埋め尽くしているので、欲しいものは何でもここで見つかるはずです。
終わりに
キングストンは初代サクソン王が戴冠を受けた場所であることから、イングランド発祥の地とも言われています。
日本ではあまり知られていない街ですが、チューダー時代のチャーミングな建物と賑やかなマーケットに加えて、テムズ川とショッピングの魅力まで付いてくる、どなたでもきっと気に入って頂けるロンドン郊外の街です。
キングストン駅へは、ロンドン中心部のウオータールー駅からナショナルレイルで30分弱。多くの路線のバスのターミナルでもありますので、テムズ川の南側からはバスの方が便利かもしれません。
気軽に国内旅行をした気分を味わえるキングストン・アポン・テムズを、ぜひ訪れてみてください。
コメント